松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
常にフツウでいることの普通じゃなさ。
松山英樹、日本人最多4勝の舞台裏。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2017/02/07 11:40
ティオフする前、松山英樹はサングラスを拭く。ルーティンの積み重ねが、彼の「フツウのゴルフ」を支えているのだろうか。
サングラスを拭き、ストレッチする儀式の意味。
無理をせず、いつものように――。
何度も練習してきた通りに――。
無心で目の前のボールを打てば、自ずとミスは減り、自ずとスコアが伸びる。何も特別なことは要らない。
それが、松山の「フツウ」の意味するところなのではないか。偉業を達成するための「フツウ」への挑戦。それが、彼の戦いなのではないか。そう思いながら、彼の最終日を眺めた。
サンデーアフタヌーンの1番ティ。サングラスを拭き、足をストレッチしていたのは、連覇をかけて挑む特別な状況下にありながら、自身を「フツウの世界」へ引き戻すための儀式のようなものだったのだろう。
日常動作がフツウをもたらしてくれる。いや、それさえも意識せずに行なっていたのかもしれない。そのぐらい松山は、すでに「フツウ」になっていた。それが、あの日の彼の強みになったのだと思う。
他の選手が何をするかは、コントロールできない。
出だしから当たり前のようにフェアウェイを捉え、グリーンを捉えた。パー5の3番では当たり前のように2オン成功。しかも傾斜を使ってピン1メートルに寄せて早々にイーグル奪取。「フツウの松山」が、普通ではない快走を見せる気配がこのころから見え始めた。
その気配は現実となって花開き、ほぼノーミスのゴルフで3つのバーディーをさらに奪い、通算17アンダーでついに単独首位へ。
自分自身が「フツウ」にやったその先に、他選手が何をするかは、もはやコントロールが及ばない。一時は松山を3打も引き離して首位を走っていた韓国のアン・ビョンフンがスコアを落としていったこと、その間隙を縫って全米オープン覇者のウェブ・シンプソンが浮上し、通算17アンダーで先にホールアウトしたこと。それは松山の「フツウ」とは無関係に起こった現実で、松山がやるべきことは、相変わらず「フツウ」に自分の目の前のボールと無心で向き合うということだけ。