松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER

常にフツウでいることの普通じゃなさ。
松山英樹、日本人最多4勝の舞台裏。 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph bySonoko Funakoshi

posted2017/02/07 11:40

常にフツウでいることの普通じゃなさ。松山英樹、日本人最多4勝の舞台裏。<Number Web> photograph by Sonoko Funakoshi

ティオフする前、松山英樹はサングラスを拭く。ルーティンの積み重ねが、彼の「フツウのゴルフ」を支えているのだろうか。

最終日、唯一の邪念が72ホール目で出た?

 72ホール目。カップの淵で無情にも止まってしまったバーディーパットは、不運だったのかもしれないし、もしかしたら体力的な限界を感じつつ、「今年はプレーオフをやりたくない」、「入ってくれたら、どれだけ楽か」と思ったという彼の心が、この日の唯一の「邪念」となり、それが「フツウ」を乱したのかもしれないなと今は思う。

 だが、いざプレーオフに突入してからは、もはや何を考えるまでもない。一歩も引けない一騎打ち。相手より1打少なく上がるだけ。

 大観衆に囲まれたTPCスコッツデールの昼下がり。そこで挑むサドンデス・プレーオフは、その名の通り、たった1つのミスで「急死」してしまう恐怖の戦いだ。72ホールの間は「フツウ」を心掛けてきた松山だが、このときばかりは心臓が張り裂けそうな空気の中で戦っていたのだろう。

 1ホール目、2ホール目、3ホール目。互いにパーで決着がつかず、進んでいった4ホール目。3メートルのバーディーパットを沈め、拳を握りしめた松山の姿は、達成感と安堵と喜びに溢れていた。

最後のパットを決めても、「松山ならフツウだよ」。

「プレーオフはとても苦しかったけど、勝つことができて良かった。チャンスは必ず来ると思って、ずっと待っていました」

 それは「劇的な幕切れ」、「感動の場面」。華々しい見出しが、すぐさま世界のメディアのウェブ上に躍った。

 そう、本当に素晴らしい勝利、見事な勝ち方だった。だが、あのとき彼があの場面であのバーディーパットを沈めたことを、「すごい」と感動するより、むしろ「松山ならフツウだよ」と受け止めた私は、もしかしたら松山が心がける「フツウの世界」を、ほんの少し垣間見ることができたのではないか。

 そんなことを思いつつ、「フツウ」に偉業を成し遂げた松山の普通ではない可能性に、あらためて身震いさせられた。

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