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三浦淳寛「名将は優れた心理学者」
高校サッカー決勝の両監督を語る。
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byKyodo News
posted2017/01/12 08:00
黒田剛監督は、25歳で監督に就任して20年以上青森山田一筋。多くのJリーガーを輩出し、名門としての地位を築き上げた張本人だ。
「上手い」よりも「怖い」選手だった鳴海。
選手個々のプレーぶりからも、心の強さが伝わってきました。特に得点王に輝いた鳴海彰人選手には、闘争心を感じた。彼のプレーは「上手い」のではなく「怖い」。高い身体能力を活かしながら、常に相手にとって怖いプレーを選択していました。鳴海選手だけでなく、青森山田にはGKにも、最終ラインにも、中盤にも高い技術と心の強さを兼ね備えた選手がそろっていた。「負けたらどうしよう」ではなく、「絶対に勝つ」という強い心を持っているからこそ、引いた相手からでもゴールを奪えたのだと思います。
一方、決勝で敗れはしましたが、前橋育英も素晴らしいチームでした。ボランチの大塚諒選手や長澤昂輝選手を中心に、選手同士の距離感が良いから、テンポ良くパスが回る。最終的には5点もの差がついてしまいましたが、序盤と前半終了間際の決定機を活かしていれば、どちらが優勝していたかわからない。それほど実力の拮抗した2チームによる決勝だったと思います。
「史上最悪の世代」と言った前橋育英監督の本心。
決勝のテレビ中継では、インターハイの群馬県予選初戦で敗れた際に、山田監督がチームのことを「史上最悪の世代」と評したことが何度も紹介されました。これは、決して本心ではないと思います。実は僕も、高校時代に小嶺先生から何度も同じ言葉をもらいました。そのたびに、「絶対に這い上がる」と心に火がついたんです。
例えば僕が高校2年時の選手権では、ベスト4で敗れました。そのとき小嶺先生は、あえて3年生を叱咤したんです。当時のチームは、間違いなく3年生のおかげでベスト4まで行けたし、準決勝で負けたのは僕ら下級生の力不足が原因でした。それでも小嶺先生に叱られる3年生の姿を見て、僕らは本当に申し訳なく思ったし、だからこそ「3年生の悔しさを晴らすために、来年こそは絶対に優勝するんだ」と心に誓った。あの経験があったからこそ、翌年、優勝することができました。