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三浦淳寛「名将は優れた心理学者」
高校サッカー決勝の両監督を語る。
posted2017/01/12 08:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Kyodo News
名将とは、優れた“心理学者”である。これを再認識した第95回高校サッカー選手権でした。
今大会の決勝は青森山田の黒田剛監督、前橋育英の山田耕介監督という、経験と実績を兼ね備えた高校サッカー界の名将同士の対決となりました。この2チームのサッカーを見ていると、両監督が日頃から厳しさと愛を持って指導し、選手たちの「心」を鍛え上げてきたことが、すごく伝わってきました。
例えば、相手に引かれた際のメンタルです。今大会では自陣に守備ブロックを組んで、カウンターとセットプレーに勝機を見出すチームの躍進が目立ちました。前評判は低いチームでも、相手との力関係を冷静に分析して現実的な選択をすることで、多くの番狂わせが生まれました。
一方で青森山田と前橋育英は、相手に引かれた状態でもしっかりと勝ちきることができていました。特に青森山田の「慌てない」姿勢は印象的でした。準決勝の東海大仰星戦(○2-1)で、前半途中に1-1に追いつかれた場面でも、選手の表情には焦りの色がまったくなかった。自分たちがつくり上げたサッカーを、信じきっているのが分かりました。
国見時代は「負けるわけがない」と思っていた。
これは強豪校が相手に引かれた場合に、非常に大切な要素です。僕も国見高校時代、選手権の舞台で相手に守りを固められる展開は何度も経験してきました。そのとき意識していたのは、「負けるわけがない」ということです。
「自分たちは小嶺(忠敏)先生の下で、日本一厳しいトレーニングを乗り越えてきたんだ。相手に引かれた場合を想定したコンビネーション、シュート練習も徹底してきた。キックオフから試合終了まで、自陣に引いたまま守り通せるチームは、そうはいない。だから、絶対にこじ開けられる」
こう信じることで、たとえ0-0のまま試合が進んだり、失点をしても慌てずに戦うことができた。きっと今回の青森山田の選手たちも、日頃のトレーニングや黒田監督の意識付けによって、「自分たちを信じる」メンタルをつくり上げたのだと思います。