スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
青学の存在で、優勝を信じられない?
早稲田がハマった「追う者の弱み」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/01/12 07:00
過去2回6位、5位だった往路で、今年は2位と大きく順位を上げた早稲田大学。それだけに、9位だった復路が悔やまれる。
相楽監督は8、9区の誤算に信じられないという表情。
いうまでもなく、復路の最大のチャンスは7区、8区にあった。青学大の7区、田村和希は不運にも脱水症状に見舞われてしまった。相楽監督はいう。
「青学さんのトラブルという形ではありましたが、タイム差が縮まったことで、勝負できると思いました。8区、9区には自信を持っていたからです」
ところが、ここで誤算が生じる。8区の太田智樹(1年)が区間14位のブレーキ。対する青学大は下田裕太がMVP級の走りで勝負を決めた。
ADVERTISEMENT
優勝が遠のいたことも影響したのか、9区の光延誠(3年)は東洋大にかわされ、3位へと後退してしまう。
相楽監督は、にわかには信じられないという表情を浮かべ、8、9区を振り返った。
「早稲田には箱根駅伝に向けて、伝統の『集中練習』というものがあります。選手を箱根仕様に仕上げていくためのノウハウが詰まった、練習メニューです。太田、光延ともに消化率も高く、自信を持って送り出しました。それがこの結果になってしまっては……」
陸上は科学でもある。
練習メニューとその消化率、タイムなどの情報の蓄積が各大学にはあり、それによって本番のレースをシミュレーションする。
今回、練習とレース結果の連関性にズレが生じてしまった。特に復路の選手たちだ。「W」のマークをつけた選手たちは、もっといい記録で走れる可能性が十二分にあった。
「その原因がどこにあるのか、選手たちと話し合いたいと思います」
相楽監督はそういった。
優勝から遠ざかる程、勝利は現実感を失う。
もっとも回答を求めやすいのは、「メンタリティ」かもしれない。
「優勝が遠のいて、緊張感が切れてしまったのかな、と感じた部分もありました」
早大の選手たちは、どこか青学大を意識しすぎている部分があったようにも思う。すでに出雲、全日本を制し「青学大は強い」というイメージが完成している状況で、集中練習でしっかり練習を消化できた事実(=科学)があるにもかかわらず、自分たちのポテンシャルを信じきれなかったのではないか。
本当は、「自分たちはもっと強い」と信じてもよかったのに――。
「優勝を狙えるチャンスはなかなか訪れないので、このチャンスをものにさせたかった――。そう思います」
相楽監督は学生たちに申し訳なさそうに、そう言葉を絞り出した。
優勝から遠ざかっているチームの難しさを、今年の早稲田に見た気がした。