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箱根の青学大に隙はあったが……。
3連覇目は「駅伝っぽい」勝ち方で。
posted2017/01/05 18:20
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Takuya Sugiyama
「ミスがあっても、誰かがカバーして勝つ。去年のチームのような圧倒的な強さはないですが、なんか『駅伝』っぽくて、いいかなって」
昨年の11月、全日本大学駅伝に勝った後、青山学院大の主将である安藤悠哉から聞いた言葉である。
まさに、この言葉に今年の青学大の強さは凝縮されていた。
出雲、全日本と合わせての三冠、そして箱根駅伝の3連覇は歴史に残る偉業だ。しかし冷静に振り返ってみると、2位の東洋大とは7分21秒の差をつけたにせよ、青学大はレース前から完璧な状態ではなかった。
「初めてキリキリと胃が痛むような12月を過ごしました」
そう原晋監督は話したが、16人のメンバー登録の後になって、1区に予定していた期待の新人、鈴木塁人がシンスプリントを痛めて起用が難しくなった。加えて前回3区で区間賞を取った秋山雄飛は練習で凡走を繰り返し、他の部員からも「秋山は無理だろう」と思われるほどの不調。
追い打ちをかけるように年末にはエースの一角である田村和希が、発熱はなかったものの喉風邪をひき、コンディションに不安を残した。おそらく、田村の調子が良ければ3区に起用していたはずだ。少しでも回復の時間を稼ぐため、田村は補欠に入り、7区を走ることになった。
なんとか選手のやる気を引き出そうとした監督の苦心。
レースでも明暗が交錯した。
3年連続2区を走り、駅伝で初めての区間賞を狙った一色恭志だったが、本人曰く「初めての凡走」で区間2位に終わり、ライバルにダメージを与えることは出来なかった。
しかし、一色の不調を3区の秋山がカバーする。本番まで2週間を切っても、調子と気分が上がらなかった「大器」だったが、原監督はなんとかなだめすかして快走を引き出した。レース中、運営管理車から「秋山、君は『湘南の神だ!』」という言葉が出たのは、秋山のやる気をなんとか引き出そうとする原監督の苦心の表れだった。