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誰も知らない韓国サッカーと徴兵制度。
鳥栖・金民友はなぜ日本を去ったのか。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byKenzaburo Matsuoka/AFLO
posted2017/01/04 08:00
サガン鳥栖で2010年からプレーしていた金民友。退団時にはチームの主将も務めていたほどの中心選手だった。
徴兵から逃れるためには、さまざまな方策があるが……。
キャリアのピークである20代に約2年間、トップチームを離れなければならない。そんな韓国の兵役を巡るエピソードは枚挙に暇がない。
近年では、代表FW朴主永(パク・チュヨン/ソウル)の去就が大きな問題になった。
2011年にフランスのモナコからアーセナルに移籍。この際、フランス国内の別クラブ(リール)とメディカルテストまでを済ませながら、サインの直前にベンゲル監督から直々に口説きの電話が入り、方向転換。論争を巻き起こしたが、本人は「徴兵のことを考えると、自分にとって最後の欧州での移籍になると思った。だからどうしても大きなチャレンジをしたかった」と説明した。
その後に朴は、2012年3月の記事により、秘密裏にモナコ公国の永住権(「長期滞留権」とするメディアもあり)を獲得していたことが明らかになった。これは徴兵を延長もしくは、回避する条件にもなるため、韓国メディアから猛攻撃を浴びた。
本人は「一般の軍人として、30代中盤になっても必ず軍隊には行く」と弁明。こうなると「隊のなかで年下の上司がほとんど」という状態となるため、相当な覚悟が必要なものだった。その後、2012年のロンドン五輪にオーバーエイジ枠で出場し、銅メダルを獲得。「念願」の免除を叶えるかたちとなった。
ソン・フンミンはいつ徴兵に行くつもりなのか?
近年の話題で最も注目されているのが、「孫興民(ソン・フンミン/トッテナム)は、いつ徴兵に行くのか」というもの。
ロンドン五輪は所属クラブでの活動を優先させ、出場を辞退。リオ五輪では決勝トーナメント1回戦でホンジュラスに敗れ、免除資格の銅メダルを逃した。2006年ドイツワールドカップを最後にワールドカップベスト16入りによる免除が廃止となったため、この先のキャリアデザインが非常に難しくなっているのだ。
現行制度にも問題点が指摘されている。
ヨーロッパに武者修行に出ている、無名の選手たちは徴兵をどうするのか。尚武でプレーを続けるために、あくまでいったんKリーグ所属を条件とするのか。例えば南野拓実が所属するザルツブルク(オーストリア)には、黄喜燦(ファン・ヒチャン)という20歳のプレーヤーがいるが、こういった存在の扱いについても、議論は避けられないだろう。
選手としては「20代後半に軍に行くまでにキャリアを軌道に乗せる」という強い意志を持つ契機になる。一般的に韓国人選手について言われる、強いメンタルの一端を担いうるものだ。
まずは国内で有名になり、その後は強豪・軍隊チームへ。
システムが複雑に入り組むなか、金民友は1年間は水原三星でプレーする見通しだ。徐正源(ソ・ジョンウォン)監督は「MFなら左右、中央すべてこなせるマルチプレーヤーの彼を切望していた」と期待をかける。
まずは国内でより認知度を上げる。その上で、心置きなく軍隊へ。
これが当座の青写真だ。