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誰も知らない韓国サッカーと徴兵制度。
鳥栖・金民友はなぜ日本を去ったのか。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byKenzaburo Matsuoka/AFLO
posted2017/01/04 08:00
サガン鳥栖で2010年からプレーしていた金民友。退団時にはチームの主将も務めていたほどの中心選手だった。
選手はすべて軍人というサッカークラブ「尚武」。
紆余曲折の結果、辿りついた形態はこういったものだった。
「社団法人 尚州市民プロ蹴球団」(軍でのステイタスはそのまま「国軍体育部隊」)
プロチームとして活動するが、母体は株式会社ではない。選手はすべて軍人だ。
国内クラブからレンタル移籍で加入し、いったんプロ契約を中断。わずかな小遣いで生活するかわりに、食事と住居は軍隊から保証される。選手は毎年、除隊時期に大きく入れ替わる。この点はKリーグの昇格・降格において一切考慮なし。選手が軍人(アマチュア選手)のため、アジアチャンピオンズリーグへの出場権がない。社団法人という形式は、「営利を目的としない」=「株主に配当しないうえで、収益を得てもよい」。試合への入場料設定、グッズ販売なども他のクラブと同じく行われている。
法人格はプロクラブ、所属選手は軍人。
つまり尚武とはそんな複雑なチームなのだ。そこに選手が移ることには、やはり特別ルールが必要である。Kリーグ定款にはこういった記述がある。
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第6条 軍/警※ 入隊ならびに学校進学選手
選手契約中に軍/警に入隊する際、選手契約は自動的に停止され、転役(除隊)後、即時に元の所属クラブに復帰しなければならない。軍/警チーム入隊選手は、軍/警レンタル契約書を締結せねばならず、この場合該当選手は入隊した軍/警チームの選手として諸般の活動を行うことができる。
※警=警察庁。韓国の兵役では配属先として警察庁も含まれる。
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つまりレンタル移籍にしておいて、除隊後、元のチームへの復帰を保証するというものだ。ここには一般軍人にも保証されている権利「復職保証」の影響もある。選手としても「兵役終了後、戻る場所が明確」という安心感があったほうがよいと考えるのは理か。
Kリーグ定款 第2章 第6条には「レンタル契約期間中、元来の所属クラブと他クラブとの移籍またはレンタル移籍合意は効力がない」との項目もある。
強豪・軍隊チームの入団年齢制限は27歳まで。
もう1つ問い合わせが多かった点は「なぜ今、徴兵に?」という点だ。
この点は、尚武への入団の年齢制限が27歳に定められているという点が、明確な答えとなるだろう。
1990年2月25日生まれの金民友は、今年27歳になってしまう。実力を有する選手のみが入団できる尚州尚武でプレーするには、これが最後の機会、ということだ。