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誰も知らない韓国サッカーと徴兵制度。
鳥栖・金民友はなぜ日本を去ったのか。 

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吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

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photograph byKenzaburo Matsuoka/AFLO

posted2017/01/04 08:00

誰も知らない韓国サッカーと徴兵制度。鳥栖・金民友はなぜ日本を去ったのか。<Number Web> photograph by Kenzaburo Matsuoka/AFLO

サガン鳥栖で2010年からプレーしていた金民友。退団時にはチームの主将も務めていたほどの中心選手だった。

Kリーグでも「そこそこ強い」軍隊チーム。

 ただ、当然だが選手たちの自由は制限される。2003-05年に尚武でプレーした李同國(イ・ドング/全北)は「毎日夕食後に自由時間があったが、いくら考えてもやることがなかった」。仕方なくウェートトレーニングを始めたところ、プレーが良くなっていったという。現在では多少規律が緩やかになっているというが。

 この尚武、強いか弱いかと言われると……、

 そこそこ強い。

 チームは誕生してすぐの'84年に実業団チームが戦う2部リーグ優勝を果たし、プロの1部に昇格。8チーム中6位に入った。しかし「プロの中に軍チームがいるのは矛盾」との世論に勝てず、この年限りで再び2部に戻ったという歴史もある。

 それ以外は長らく韓国2部リーグに所属し活動を続けてきたが、'03年からプロ化された。

 この過程が、日本から見ればかなり複雑。韓国国内でも様々な物議を醸してきたという。

 もちろん国内サッカー界からは、「軍人の競技レベルの維持のために尚武を1部リーグで」という声は挙がっていた。'02年ワールドカップ前後、当時の大韓サッカー協会鄭夢準会長は「徴兵問題の解決」としてこの案件を積極推進していたほどだ。

なぜKリーグに軍隊のチームが参加しているのか?

 国内での葛藤とは別に、アジアサッカー連盟(AFC)からKリーグ全体の構造上の問題について、あれこれと指摘が入ってきたこともある。

 まずは「1部リーグのチーム数が少ない問題を解決するように」というものだ。

 韓国は長年、10チームほどでリーグを争ってきた。チームの運営に手を上げる企業や自治体が少ないなか、そんな理由もあってか、軍人のチームであっても1部リーグに加わってもらう必要があった。

 さらに'12年には別の指摘が。

「尚武は1部リーグに参加するクラブのガイドラインを満たしていない」

 するとこの年の9月にKリーグ側が「成績に関係なく、来年は2部に降格」と宣言。これに対し、残りのリーグ戦を尚武がボイコットしようとする事態にまで発展した。なにせ、その間も彼らは「まあまあ強かった」。'08年にはカップ戦でベスト8に進出し、'09年にはシーズン中盤までリーグ戦で首位を走った(終盤に主力選手が一斉除隊し、6連敗。最終的には15チーム中11位に)。

【次ページ】 選手はすべて軍人というサッカークラブ「尚武」。

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