畠山健介のHatake's roomBACK NUMBER
畠山健介「W杯で勝てるなら……」
フィジー戦の戦略意図を解説する。
posted2016/12/08 11:00
text by
畠山健介Kensuke Hatakeyama
photograph by
Aki Nagao
12月1日発売のNumberのラグビー特集で、僕が書いたアルゼンチン戦、ジョージア戦、ウェールズ戦のレビュー原稿を載せてもらった。そこでカバーしきれなかったフィジー戦を振り返りたい。
世界ランク6位のウェールズと試合した翌日、僕らは遠征や試合の疲労が蓄積した身体で、欧州遠征の最終地であるフランスのヴァンヌに向けて出発した。最後の相手はフィジー。世界ランクでは日本の1つ上の10位。2016年最後の試合を勝利で締めくくりたかった。
フィジーとは過去に何度も対戦してきた。選手は皆体格が大きく、身体能力も非常に高い。勢いのまま激しく突っ込んで来る選手や、巨体にも関わらず鋭いステップを踏む選手など、体格の強みに加え、巧みなオフロードパスを駆使する。何もない状況からトライを生み出せる「フィジアン・マジック」は、世界中のラグビーファンを長年楽しませている。
スクラム、ラインアウトが弱点のはずだった。
今年のリオ五輪で初採用となった種目、セブンズ(7人制ラグビー)では金メダルを獲得し、フィジー共和国初の五輪金メダルをもたらした。また、セブンズのワールドシリーズでも何度も優勝しており、そのポテンシャルの高さは世界でも評価されているが、本家 (15人制ラグビー)でのテストマッチや国際大会では本来の力通りの結果が出せていなかった。W杯では1987年の第1回大会、2007年の第6回大会の2大会でしかベスト8に進出できていない。ベスト4以上には未進出だ。
その理由の1つがセットピース(スクラム、ラインアウト)だった。プレー再開時に必ず行われるセットピース。ラグビーではセットピースを避けられない。回数を減らすことは戦術・戦略によってある程度は可能でも、1試合を通じてスクラムとラインアウトをゼロにするのは不可能に近い。セットピースでプレッシャーを与え、フィジーが得意とするアンストラクチャーからの攻撃の時間を減らすことで、強豪国はフィジーの強みを消してきた。
これまでセットピースを苦手としてきたフィジーだが、近年はセットピースの戦場であるフランスのリーグでプレーする選手(特にFW)が増え、スクラムやラインアウトを文字通り肌で学び、もともと持ち合わせていたポテンシャルも相まって、強力なスクラムを組めるチームに進化した。