Jをめぐる冒険BACK NUMBER
岩政大樹が岡山に持ち込んだ鹿島流。
勝利の秘訣は「まだ言いませんよ」。
posted2016/11/29 17:30
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
1-1で迎えた後半のロスタイム、松本山雅はセオリーどおり、ファジアーノ岡山のパワープレーをほとんど完璧に跳ね返していた。
だが、その“セオリーどおり”が裏目に出てしまうのだから、サッカーは恐ろしい。
「このままだとキツいな、と思っていたら勝っちゃうんですから、長年サッカーをやっていますけど、分からないですね」
30分ほど前に終わった試合を、岡山のキャプテン、岩政大樹はそう振り返った。
鹿島アントラーズ時代に大一番を何度も制してタイトルを掴み取り、海を渡ってタイでも優勝経験のある男をして「分からない」と言わしめた雨中の激闘――。そのエンディングは劇的というよりも、サッカーの怖さを浮き彫りにした。
松本がラインを上げた判断は間違っていなかった。
J2・3位の松本と6位の岡山によるJ1昇格プレーオフ準決勝。松本のホーム、アルウィンで行われ、引き分けで終われば松本の勝ち上がりとなるこのゲーム。押され放しだった岡山が23分に押谷祐樹のゴールで先制すると、74分に松本がCKからパウリーニョが頭で決めて同点に追いついた。
このまま終われば敗退となる岡山は、豊川雄太、藤本佳希らFWを次々と投入、センターバックの岩政大樹も前線に上げてパワープレーに打って出る。ラスト5分、松本のゴール前は、大混戦になった。
それでも松本は、放り込まれるボールを跳ね返し続け、90+1分にはボランチの武井択也を送り込み、いよいよ逃げ切り態勢を整えた――その直後だった。
相手陣内に向けて大きくクリアした松本の守備陣は、ディフェンスラインをグッと押し上げた。
ディフェンスラインに吸収されていた中盤の選手たちも、このブレイクで本来のポジションを取り直した。
ゴール前にへばりついたままでは、いつかはやられてしまう。相手をゴール前から遠ざけるためにも、大きく蹴り出し、ラインを押し上げた判断は、間違っていない。
だが、そこに落とし穴があった。