Jをめぐる冒険BACK NUMBER
岩政大樹が岡山に持ち込んだ鹿島流。
勝利の秘訣は「まだ言いませんよ」。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/11/29 17:30
鹿島で幾多のタイトルを手にした岩政大樹が岡山にもたらしたものは限りなく多い。「勝利の経験」はその最たるものだろう。
相手の時間帯を凌げばチャンスが来る、という確信。
岩政がどんなアドバイスを送っていたのかは定かではないが、いずれにしても、ゲーム終盤の攻防に関して、入念に準備していたことは確かなようだ。
「残り10分で土俵に持ち込めば、それなりにやれることがあるというゲームプランでした。同点になったあと、僕は落ち着けというサインを出したんですけど、ピッチの中でも、全然下を向いていなくて、ここから始まるぞ、という感じだった」
そう長澤徹監督がゲームプランについて明かせば、岩政も同調するように、ピッチ内における心理について語った。
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「後半なかばぐらいまでイーブンでいくのが自分たちのプランでしたから、(追いつかれても)そこに戻っただけだったので、がっかりした部分はありますけど、やることは想定していた。最後いかに刺すか、というところに持っていくだけ。相手が押せ押せの時間帯を凌いで残り5分になれば、相手は下がって、うちのチャンスになると思っていた」
「引き分けでオーケー」が頭をよぎる怖さ。
この試合を見て改めて思うのは、失うものの大きいチームの難しさだ。
松本がリーグ戦で稼いだ勝点は84。1位のコンサドーレ札幌との勝点差はわずか1、2位の清水エスパルスとは同勝点でありながら、得失点差で負ければすべてが水泡に帰すプレーオフに回らざるを得なくなった。ましてや、リーグ終盤に順位を2位から3位に落とし、自動昇格を逃したわけだから、切り替えることの必要性を理解していても難しい。
上位チームにとって引き分けでも勝ち上がれるレギュレーションも、心の持ちようを難しくする。試合が始まる前からなのか、リードを奪った瞬間なのか、同点のまま終盤を迎えたときなのか、どこかで「引き分けでオーケー」という判断を下さなければならないときが来る。その意思統一が少しでも乱れようものなら、綻びが生じてしまう。
勝点65、6位でプレーオフに進出した岡山は、勝つしか道が拓けないため、戦い方や意思統一に迷いがない。矢島の言葉が彼らの立ち位置を端的に表している。
「プレーオフに出られたのも命拾いしたようなもの。開き直って戦えた」
12月4日に行われるJ1昇格プレーオフ決勝は、4位のセレッソ大阪と6位の岡山による対戦になった。失うもののない岡山が再び下克上を果たすのか、3年ぶりのJ1復帰を目指すC大阪が、有無を言わさずねじ伏せるのか。松本とはまったくタイプの異なる相手に岡山がどのようなプランを練るのか、注目したい。