沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
芸術的な共同作業でJC完全勝利。
武豊+キタサンに漂ってきた無敵感。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2016/11/28 12:00
昨年のGI初戴冠から、キタサンブラックは北島三郎オーナーに喜びをもたらし続けている。このまま日本初の凱旋門賞、なんてことも……?
府中の直線は525m。しかし残り300mまで我慢を。
向正面でも内をややあけて走り、前半1000mを61秒7で通過した。
「いいリズムでした。馬場状態からして61秒台で入れたらいいなと思っていたので、プランどおりでした」
そこからも12秒5、12秒7、12秒3と、芸術的とも言えるイーブンペースを刻みながら逃げ、4コーナーも内を4、5頭ぶんあけて回り、直線に向いた。
ラチなど頼らせなくても大丈夫だ、という騎乗馬への信頼が伝わってくるコーナリングだった。
「残り300mまでは後ろを待って、それまでは本気で最後の力を出させないようにしようと自分に言い聞かせていました」
武は鞭を左(内)に持ち替え、ラスト300m地点を過ぎてから、内側から叩いてゴーサインを出した。ラチに近づかずに走り切るための鞭である。
スタンドから双眼鏡でレースを見ていた北島オーナーは、涙が出てきて、双眼鏡がどこかに行ってしまったという。
清水調教師も、手応えが素晴らしかったうえに、追い出しを極限まで待ってからスパートしたことがわかったので、安心して見ていられたという。
ディープ以上の着差をつけた完全勝利。
キタサンブラックは、武のエスコートでグリーンベルトを2分25秒8で走り切り、2着を2馬身半突き放した。
ジャパンカップは着差のつきにくいレースであり、これは過去10年で2番目に大きな着差だった。2006年のディープインパクトでさえ、2着とは2馬身差だった。
キタサンブラックが、これまで着外になった唯一のレースが同じコースで行われたダービー(14着)だったのだが、圧倒的な走りで、「東京不安説」をかき消した。後ろも脚を溜められるほどには遅すぎず、自分の末脚に響くほどには速すぎずという武ならではのペース配分を、キタサンブラックが見事に生かして、ゴールまでもうひと伸びするという「共同作業」だった。