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「僕はまだ簡単なことをやっている」
羽生結弦がNHK杯で見せた“伸びしろ”。
posted2016/11/28 11:55
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
笑顔があった。2日間ともに、演技を終えて引き上げてきたあと、穏やかな表情を浮かべていた。
その表情のとおり、羽生結弦は、スケートカナダから確かな前進を示し、NHK杯で優勝を果たした。
11月25日、ショートプログラムは『レッツゴー・クレイジー』。
白から淡い紫の衣装に一新した羽生は、冒頭の4回転ループこそ、挙動が乱れはしたが着氷。4回転サルコウ-3回転トウループのコンビネーションジャンプを成功させると、トリプルアクセルではGOEで満点を得る。
103.89――今シーズンの世界最高得点をマークした。スケートカナダより安定を増したジャンプもさることながら、全体の流れに“冴え”があった。
「ロックスターになった気分で滑った」と言う羽生は、演技を振り返ってこう語った。
「スケートカナダから比べて、成長できた部分が多々あり、自信を持って臨むことができました。日本ということもあり、非常にこのプログラムを楽しむことができたと思います」
一気に観客を興奮の渦に巻き込んでいった羽生。
翌日のフリーは、『ホープ&レガシー』。
ショートではバランスを崩した4回転ループで、回転軸が斜めになりながら成功させると、歓声と拍手が沸く。続く4回転サルコウをきれいに決める。
後半、4回転サルコウの転倒はあったものの、観客を引き込んだ演技に、場内の熱気は高まった。
得点は197.58、総合得点は301.47と300点を超えた。
「皆さんの前で滑れる喜びをかみしめながら滑りました」
ショートとはまた異なる心持ちで臨んだ羽生は言う。
「今回は(スケートカナダとは)まったく違う感覚で滑ることができた。日本だからこそかもしれないですが、お客さんの方を向いてアピールすることができました」
変化の要因の1つに、コーチのブライアン・オーサーとの話し合いがあった。