オリンピックへの道BACK NUMBER
「僕はまだ簡単なことをやっている」
羽生結弦がNHK杯で見せた“伸びしろ”。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2016/11/28 11:55
「彼はとても賢い選手。もうオリンピック・イヤーに目を向けています」と語っていたオーサーコーチ。
オーサー「トータルパッケージを大切に」。
今シーズン、4回転ループを取り入れるために、練習における比重がそこにかかっているようにオーサーには見えていた。それでも、「ユヅルはトレーニングで試したいことがありましたし、コーチである私は、選手のそうした思いをくんであげるべきだと思いました」と見守っていたオーサーは、カナダの後、羽生に伝えた。
「トータルパッケージを大切にしなさい」
羽生はそのときをこう振り返る。
「自分のスケート、プログラムへの考え方、ジャンプがどういうものかを話し合い、僕としてはジャンプが決まらないとトータルパッケージじゃないと伝えました」
トータルで大切にしたいという点で、両者の思いが実は一致していた。
実は、2人で細部まで話し合うことでもたらされた、新たなこともあった。
「4年目(実際は5年目)で言うのもなんですが、コミュニケーションの壁がだいぶ垣根のないものになってきました。練習の内容もよくなったと思います。内容というよりも、コーチとの息(が合ってきた)というか」
目指すべき方向と進み方を確認したことが、ショート、フリーともに、ジャンプでの修正だけにとどまらず、プログラムとしての魅力をさらに引き出す演技につながった。
羽生「ベースができていました」。
2日間を振り返れば、ショート、フリーともに完璧ではなかった。それでも300点を超える得点をあげることができた。
羽生は「ベースができてきました」と語る。そのベースが昨シーズンよりも高くなっていることを示している。同時に、羽生が何度も口にしていた「伸びしろ」をも感じさせる。
印象的だったのは、記者会見での言葉だ。
10月のフィンランディア杯のフリーで4回転に5度挑んだネイサン・チェン(アメリカ)について触れつつ、羽生は言った。
「僕の演技にとって、すごく自信になりました。というのも、僕はまだフリーに5回も4回転を入れることができていませんし、ループも完璧に決めているわけではありません。彼がルッツ、フリップを跳んでいるのを見て、僕はまだ簡単なことをやっていると思えました」
自分より難しいことをやっている選手がいる。だから自分はまだまだやれることがある、もっと伸びていける。
そう捉えられるところにも、羽生の強さがあらためてうかがえる。今シーズンのみならず、視野に入れている来シーズンの平昌五輪へ向けて、ここからの取り組みと足取りが、より楽しみになる2日間でもあった。