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松山英樹、アジア勢初のWGC優勝。
AONと違う道で世界ランク6位の意義。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYouichi Katsuragawa
posted2016/11/05 11:30
世界で戦う日本人アスリートは、ここ近年大きく注目を集めている。松山の実績ならスポットライトをもっと浴びてもいいはずだ。
日本の認識を“変えたい”という意識が強いのは確か。
同じWGCに出場した谷原秀人も、松山が10位に入った時点で「本当にスゴイ」と感嘆し、日本国内での認識に“憤慨”していた。
「ダイスケ(松山のキャディの進藤大典)とも話してたんですけどね……テニスの錦織選手と比べて、メディアでの扱われ方が少なくないか? って」
谷原にとっても、進藤キャディにとっても、松山は東北福祉大OBの後輩である。
ふたりの議論はどうも「まあ、ヒデキは……ちょっと愛想がないからね!」という結論で一致したらしい。
違う、とは確かに言い切れないところがある。将来性を秘めた実績とメディアでの露出等とが必ずしも一致しないのは、彼のシャイで、人見知りで、警戒心の強い性格が災いしていると思うこともある。たくさんの人に認知されたいという思いを持ったりだとか、セルフプロデュースの仕方なんて真剣に考えたりする時間は乏しそうだ。
ただ、松山英樹が「プロゴルファー」という職業に誇りを持ち、先人たちが築いてきたものへの日本の認識を“変えたい”という意識が強いことは間違いない。
メディアと決して良好ではなかった時の一言。
彼の言葉で、忘れられないものがある。
もう2年以上前。2014年の6月、巷はサッカー・ワールドカップの話題で溢れていた。全米オープンに出場していた当時の松山からは、有益と思える言葉を引き出すのも一苦労。我々メディアの多くが、良い関係性を築いているとはいえなかった。
全米オープンのあと、たまたま雑談する機会に恵まれた。こちらが偉そうに「ワールドカップの話題でも持ち出せば、ゴルフの記事も大きくなったのに」と言うと、松山は「まあ、そうでしょうね」とうなずき、ひと呼吸おいて、あの鋭い目つきをした。
「どうして、ゴルファーは他のスポーツ選手を応援してばかりなんですか。新聞でもネットでも、プロゴルファーがサッカーや野球の日本代表が活躍したのを見て『刺激を受けた』とか『応援している』と話している記事は見たことがある。でも、野球選手やサッカー選手が『ゴルフの全米オープンを見てこう思った』なんていう記事を、僕は見たことがない。ゴルフって、そんなもんスか……」
何も言い返せなかった。