Jをめぐる冒険BACK NUMBER
降格危機が磐田から奪った「強気」。
まず走れ、そこから全てが生まれる。
posted2016/11/02 11:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
記者席の位置がアウェー寄りだったことを差し引いても、どちらのホームゲームなのか分からないほど、アウェーサポーターの発する野太い歌声がスタジアムを揺らしていた。ジュビロ磐田が浦和レッズをエコパスタジアムに迎えた10月29日のJ1セカンドステージ16節のことだ。
引き分け以上でセカンドステージ優勝とあって、約7000人もの浦和サポーターがエコパスタジアムに駆けつけた。磐田が従来、ホームとして使用しているヤマハスタジアムの収容人数は約1万5000人。一方、エコパスタジアムは約5万人で、実際、この日は2万4896人の来場があった。
かつて浦和戦でチケット争奪戦が起こり、'07年以降、磐田は浦和とのホームゲームをエコパスタジアムで開催してきたのも承知している。
だが、それでも考えものだと思わざるを得なかった。ホーム最終戦を、しかもJ1残留の懸かった大一番を、選手たちが慣れ親しんだピッチでプレーできないという状況は。
浦和戦が集客を見込める“金のなる木”なのはたしかだが、ホームの利を最大限に生かせなければ、本末転倒になってしまう。シーズンの開幕前には、この試合が磐田のJ1残留と浦和のセカンドステージ優勝の懸かった大一番になるとは想像がつかなかったのかもしれないが。
点差は1でも、内容の差は圧倒的だった。
試合は大方の予想どおり、開始直後から磐田が浦和の猛攻を浴び続けた。それでもGKカミンスキーがバーとポストの助けも借りながら、何度も美技を見せてゴールを許さなかった。
このまま0-0の引き分けに終われば、マン・オブ・ザ・マッチは間違いなくこのポーランド人GKのもの――そんな展開だったが、今の浦和に、目の前の優勝のチャンスをみすみす逃すかつての勝負弱さはなかった。72分、磐田の左サイドを突破した駒井善成のクロスを武藤雄樹に決められ、先制を許してしまった。
試合はそのまま0-1で終わった。磐田にとって最少得失点差での敗戦だったが、シュート数は6対21。決定機の数は1対8。「奪ったあとの判断、技術的なミス、周りが見えていないなど、全てが足りないと思うし、全てが浦和との差」と名波浩監督も認めざるを得ない完敗だった。