沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
一頭だけ筋肉が全く違ったモーリス。
天皇賞・秋でマイルと「2階級制覇」。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2016/10/31 11:40
今年の凱旋門賞を取り、現世界最強騎手の呼び声も高いライアン・ムーア。狭いところを抜けていく技術は天下一品だ。
一頭だけヘラクレスのようなムキムキ体型。
もうひとつ、距離を延ばして使っていくにあたり、大きなウィークポイントと堀師が考えていたのはゲートの悪さだったという。
ゲートの出が遅いと、ある程度のポジションをとるため、騎手は追っつけて前に行くよう促す。そうすると掛かってしまう恐れがあるのだが、馬が自分でポンとゲートを出れば、騎手はいわゆる「出たなりの競馬」をすればいいので、掛かりにくくなる。だから、ゲートの出をテーマに据えたのだろう。ここ数戦でそれはかなり改善されており、今回の勝因のひとつになった。
筆者は以前からモーリスがマイルより長い距離のレースに出ることを望んでおり、昨秋のマイルチャンピオンシップのレビューにもそう書いている。しかし、この天皇賞・秋のパドックを見たとき、中・長距離ランナーのなかにひとりだけボディビルダーが混じっているかのようで、面食らってしまった。胸前やトモの筋肉のパーツのひとつひとつの盛り上がりの、まあすごいこと。マイル戦のパドックでは、他にもムキムキ系の馬がいたので気にならなかったが、2000mのGI出走馬のなかでは異彩を放ちすぎていた。
キャリアを重ねるにつれ、マイラーとしての本質が強く表に出るようになってきたのかと思いきや、あの強さ。堀師によると、馬体は完成の域に近づきつつあるという。あれがモーリスという競馬史に残る名馬の姿であることを、しっかり覚えておきたい。
かつて、マイルGIと天皇賞・秋の両方を勝った名馬、ニッポーテイオー、バブルガムフェロー、アグネスデジタル、ダイワメジャーなども、モーリス同様、ヘラクレスのようなタイプだった。
エイシンヒカリは「負けるとき」だった。
モーリスが最高のパフォーマンスを発揮したのに対し、差のない2番人気に支持された武豊のエイシンヒカリは12着に沈んだ。理想的な1番枠から逃げて、前の馬に有利な緩い流れに持ち込みながら、直線に向くと後続に呑み込まれた。
「この馬は難しいですね。きょうは、負けるときのこの馬だった。ゲートでも、レースに行ってもおとなしすぎました。4コーナーで後ろを離そうとしたけど、伸びなかった」と武。
パドックでは発汗もせず、静かに周回していたので落ち着いているかに見えたのだが、元気がなかった、ということなのか。