“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
インドの劣悪環境を経験済の強み。
U-16はピッチ内外でタフに「戦う」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2016/09/23 17:30
ピッチはでこぼこ、突然のスコール……。めまぐるしく変わる環境をも楽しむ。それこそがサッカーに必要なメンタルである。
環境を完全に受け入れているから不満を口にしない。
正直、現地に滞在しているとインドという環境に苦しむ気持ちは分からなくはないが、それがピッチ上に出てしまっては、グループリーグ3連敗という結果を残してしまうのも頷ける。
それに対してU-16日本代表の選手は、ピッチコンディションについてあまり言及しない。質問がピッチコンディションに及べば、少しは出て来るが、彼らはこの環境を完全に受け入れているからこそ、不満を口に出そうとはしない。
この様子を取材していて感じるのは前述した通り、“一度経験すること”の重要性だ。“現代っ子はひ弱い”と言われがちだが、それは彼らに相応な経験を積ませていないだけ。過保護の環境が、彼らがタフな経験を積む機会を奪っているとも言える。
大会前に菅原が語った言葉が非常に印象的だった。
「常に森山監督は、どんな環境でも自分のプレーを出さなきゃいけないという決まりを持っているので、そこはしっかりとやりたい。サッカーをやる僕らからすると、インドの気候がどうであっても仕方がないと思います」
小野ら黄金世代もブルキナファソ遠征で逞しくなった。
森山監督は常に“戦う”ことを意識させている。その“戦う”の意味には相手だけでなく、ピッチコンディションや気候などの“環境”も含まれる。常に森山監督は「インドのピッチはこんなもんじゃない。いつも綺麗な人工芝ピッチや天然芝ピッチで試合をやっているけど、アジアや世界はそんな甘い環境ではない」と選手たちに伝え、国内の試合でも敢えて劣悪な環境をセレクトし、一切の言い訳をさせない雰囲気を作り出して来た。
「本当はもっと劣悪な場所に行って経験をさせたい。アフリカとか、いろんな国を経験することで強くなる」(森山監督)
思い浮かぶのは、小野伸二、中田浩二らを擁した黄金世代だ。日本代表監督と兼任する形でU-20日本代表を率いたフィリップ・トルシエは、ワールドユース選手権(現・U-20W杯)が開催されるナイジェリアという劣悪な環境に適応させるべく、自身が代表監督を務めた過去のあるブルキナファソへ遠征に行き、そこでアフリカの現実を選手たちに目の当たりにさせた。
これで免疫が出来た日本は、'99年のナイジェリアU-20W杯で準優勝を達成。その時、選手たちは「ブルキナファソで価値観が変わった」と口にしており、事前に劣悪な環境で経験を積む意義を実証した。
そんな偉大な先輩たちに続くためにも、彼らはまず来年のU-17W杯の出場権を手にしなければいけない。まずは25日に迎える準々決勝・UAE戦に万全のコンディションで臨み、勝利を収めることで、環境に適応した彼らの真価が示される。