“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
久保建英でもサブ組に回る競争原理。
U-16代表が醸す“俺を出せ”オーラ。
posted2016/09/20 17:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
AFLO
「チームのみんなが仲良い」
「みんなのためにやる」
サッカーはチームスポーツ。選手たちの口からそういう声が聞こえるのは、決して悪いことではない。だが、そればかりになってしまうと、“ただの仲良しこよし”になってしまい、そこには競争や意地とプライドが存在しなくなり、ひどい状況になれば“馴れ合い集団”、“烏合の衆”になってしまう危険性がある。実際にそういうチームを見て来たこともある。
今、インドの地でAFC U-16選手権を戦うU-16日本代表の選手の口からもそういう声が聞こえて来るが、彼らの目つき、そして雰囲気、より突っ込んだ言動を聞くと、その危険性はなく、むしろ非常に頼もしい健全さを感じる。
それはどういうことか。このチームは間違いなく仲がいい。しかし、その中で個々がしっかりと自己主張をし、指揮官もそれを敏感に感じ取って、彼らに強烈なメッセージを言葉と行動で示している。
サブ組の中村敬斗がベトナム戦前に見せた“激しさ”。
それはグループリーグ初戦・ベトナム戦の前の出来事だった。事前の茨城合宿で鹿島アントラーズユースと水戸ホーリーホックユースと2つの練習試合を行ったが、そこで調子が良かったMF鈴木冬一とFW山田寛人(ともにC大阪U-18)をレギュラー組に入れてトレーニングをしていた。すると森山佳郎監督の目に、ある選手の強烈な自己主張が映った。
「サブ組で出ていた中村敬斗(三菱養和SCユース)が、“いや、ふざけんな俺を出せ”という雰囲気を出していたので、ベトナム戦は鈴木と中村を入れ替えてスタートしました」
もちろん言葉で文句を言ったという稚拙な行動を起こした訳では無い。“俺を出せ”という強い想いを、トレーニングに取り組む姿勢で示したのだ。より球際を激しく、より積極的に。「自分のコンディションはいいぞ」としっかりと伝えることで、指揮官の目に自らを映し出させた。
そして、ギリギリでスタメン出場を勝ち取った中村は、ゴールこそ無かったが、2点目のゴールを素晴らしいスルーパスでアシストするなど、2アシストと1得点の起点になるなど、3点に絡む活躍を見せた。