“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
西川周作、UAE戦のFKで悔やむ一歩。
欲しいものは“ブッフォン級の余裕”。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2016/09/10 07:00
卓越したキック精度は西川ならではの持ち味だ。だからこそGKの本分であるシュートストップに磨きをかける必要がある。
「ブッフォンを見ていると、本当に余裕があるなと」
「ブッフォン(ユベントス)とか見ていても、本当に余裕があるなと思う。追いつめられている状況、攻められている状況、シュートを弾いた後など、ただ吠えるのではなく、笑顔で味方を鼓舞したりとか、試合を楽しみながら周りにいい影響を与えている。あれは彼にしか見えない世界があるからこそ。僕はそういうGKになりたいです」。
ブッフォンにしか見えない世界。それこそが彼の持つ“無の境地”で、それ自体は西川にもある。だが、まだその世界はブッフォンほどには達していない。だからこそ、自分もよりクリアに見える“無の境地”に辿り着きたい。
悔しさの中に湧き出るモチベーションと好奇心。それを彼はタイ戦でしっかりと表現した。タイ戦もUAE戦同様に日本が主導権を握り、相手ゴールに何度も襲いかかった。西川の出番は少なかったが、タイは虎視眈々とカウンターを狙い続けていた。こういう展開でGKがリズムに乗ることは非常に難しい。よくGKはファーストプレーでいいセーブをすると“乗る”と言われるように、頻繁にプレー機会が来ることでリズムに乗りやすくなる。タイ戦のような展開ではリズムに乗りづらい。つまり“無の境地”に入りにくい状況になる。
タイ戦のピンチでは“面”をつくって危機を救った。
だが、西川は自らをコントロールし、その境地に入っていた。それが実証されたのは70分のシーンだ。
タイのエースFWティーラシンに抜け出されたが、西川は抜群の飛び出しでボールを身体に当てて、相手の唯一のチャンスをつぶした。あのシーン、西川は突進して来るティーラシンに対して上体をそらしたり、かぶせること無く、しっかりとした“面”を作ってシュートコースを完全に塞いだ。だからこそ、ブロックをすることが出来た。いつ来るか分からないピンチに自然と身体が動いて、完璧なプレーをこなす。彼が“無の境地”に達していた証拠であった。
「今日(UAE戦)、勝ってスタート出来なかったのは自分達に責任があるし、自分達が作り出してしまった状況。タイ戦は絶対に勝たないといけない試合で、しっかりと力を出せるか。アウェーで“勝たなきゃ、勝たなきゃ”と思いながら戦うのか、ある程度余裕を持ってやれるのか。メンタルの問題だと思います。GKとして冷静さを失わずにやれればなと思います」
UAE戦で出来なかった“ここぞ”という場面でのファインセーブ。それでも経験はしっかりと積み重ねられていた。
西川周作が追求する“無の境地”。日本の最後の砦として君臨する求道者は、経験を一つ一つ積み重ねながら、思い描く自分に近づこうとしている。