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世代交代を約束した“誓いのパス回し”。
ロンドン五輪世代のブラジルW杯秘話。
posted2016/09/09 14:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Koki Nagahama/JMPA
抜けるような青空だった。
2014年6月25日、ブラジル・イトゥにある日本代表のベースキャンプ地は静かな朝を迎えていた。前日、コロンビアに大敗を喫してザックジャパンの戦いが終わり、クイアバから夜に移動してきたチームの疲れを癒すように、陽が優しく降り注いでいた。
グループリーグ敗退が決まったチームに、トレーニングは予定されていなかった。
朝10時ごろ、誰もいるはずのないピッチに1人、2人と選手が集まってくる。ボールを蹴る乾いた音と、人の声が次第に大きくなっていく。
清武弘嗣、山口蛍、権田修一、酒井高徳、酒井宏樹、齋藤学、そしてトレーニングパートナーの坂井大将、杉森考起。
前者の6人にはロンドン五輪世代という共通項があった。清武はコロンビア戦で最後の5分間出場したのみで、山口は3試合に出場しながらもチームを勝利に導けなかった。権田、酒井高、酒井宏、齋藤たちはピッチに立つことさえなかった。
苦く、悔しく。
誰かが言い出したわけではない。ほろ苦い味を反骨心に変えるべく彼らは自然発生的に「やろうぜ」と集まり、そして鬼を入れてのパス回しが始まったのだ。遊びではなく、「ガチ」で――。
午後に代表チームは解散し、最後のメディア対応で清武は毅然と言った。
「次は、自分たちの世代が中心でやっていくしかない。もう4年後のスタートは切っている」
それは、彼らにとっては特別な意味をもつ日になった。
“誓いのパス回し”の1人、酒井宏樹の記憶。
あれから2年が経った。
誓いのパス回しに加わった1人、酒井宏樹は4シーズン過ごしたハノーファーを離れ、マルセイユに移った。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のもと、先発の機会を増やしている。
今も「ブラジル最後の日」は胸にあった。
「負けてしまったショックと、試合に絡めなかった悔しさ。試合に出ていた選手は頭も体もヘトヘトだったと思うけど、出ていない僕は頭の疲れだけだったので体を動かしてすっきりしたいっていう気持ちがどこかにあって……だからグラウンドに出よう、と」