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世代交代を約束した“誓いのパス回し”。
ロンドン五輪世代のブラジルW杯秘話。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKoki Nagahama/JMPA
posted2016/09/09 14:00
2014年、ブラジルW杯での日本代表の合宿地イトゥの練習場での齋藤、山口、酒井(宏)。彼らが行動で示した「誓い」が初めて明かされる。
「ドログバやハメスは試合の空気をパッと変えた」
8月27日の鹿島アントラーズ戦は「剛」と「柔」をミックスした鋭いドリブルで相手を翻ろうし、ゴールもアシストもマークした。代表に呼ばれないのが不思議なぐらい突出したパフォーマンスだった。
あの日が彼にとっても「特別な日」であることに変わりはない。
「ザックさんにはW杯に連れていってもらって感謝しています。ただ、試合に出られるまでの信頼を得られなかった。あのときはもう悔しさしかなかったですね」
――どんな悔しさでしたか?
「日本戦の途中から出てきたドログバやハメス(・ロドリゲス)は、試合の空気をパッと変えたじゃないですか。それを近い距離から感じることができた。自分もあのレベルに行けていたらピッチに立てていたと思うし、日本を勝利に持っていけたんじゃないかって。出られない悔しさもあったけど、もっと上のレベルに行かなきゃって感じたんです。そこに向かうためのスタートが、みんなでやったパス回しだと思うんです」
――パス回しがとにかく激しかった、と。
「代表の練習はいつも激しいし、普通にそうなっただけのこと。まああのメンバーなら、ガツガツやりますよ。確かコロンビア戦の週の紅白戦では、若手でチームになったんです。カキくん(柿谷曜一朗)がトップに入って、キヨくん(清武)がトップ下、俺とサコ(大迫勇也)がサイドで、ボランチに蛍かな。先発組が疲れているのもあったけど、俺らサブ組が結構、圧倒できた。その流れもあって、俺らだってやれる、次は俺らだっていう思いが出ていたように感じました」
「ロシアW杯が目標になりました。現実的な目標に」
――自分たちの世代が今後引っ張っていくという思いもあったのでしょうか?
「(上の世代は)超えていかなきゃいけない壁。自分たちのほうがいいぞってところに持っていかないといけない。だからキヨくんがセビージャに行ったり、みんなそれぞれが思うことをやっている。海外に行けないもどかしさはあるけど、自分も食事や個人のトレーニング法を変えるなどして、ブラジルのときと比べたら今は、数段上にいる。やっぱりあのときの悔しさが今につながっている」
――同世代のなかでそういう話になったことはあるんですか?
「そういうのはあんまりないし、内に秘めるタイプの選手が多いかなっていう気はします。でもブラジルから帰国する飛行機でサコ、(酒井)高徳と並びの席だったんです。みんな悔しさの種類が違うけど、悔しいって。『俺たち、マジやるしかないでしょ』っていう話にはなりましたね」
――あのパス回しの意味というものを、今振り返ってみると?
「練習したから何があるってわけじゃないですけど、やったことに意味があると思う。終わってすぐにロシアW杯が目標になりました。現実的な目標に。メンバーに入るだけじゃなくて勝たせることができる選手になること。僕のなかにそのイメージはしっかりとあるし、そのためにやれることはすべてやろうと思っています」