相撲春秋BACK NUMBER
新生・九重部屋初の新入幕、千代翔馬。
2人の師匠の教えを胸に土俵に上がる。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2016/09/10 08:00
先代九重親方(元横綱千代の富士)の銅像の横で、新入幕の報告をする千代翔馬。小兵ながらしぶとい取り口が信条だ。
弟子を誉めない先代の例外が千代翔馬だった。
体重130キロの小兵でもある千代翔馬は“小さな大横綱”であった千代の富士──先代の教え、思い出を口にした。
「『体をあまり大きくするな。力がついてから体を大きくしないとケガをする。相撲は体だけじゃないよ、頭で相撲を取るんだよ。頭を使えば体が大きくなくても勝てるんだよ』とよく言われていました。あとは『頑張れ。頑張ればその後に必ずいいことがある』としか言われなかった。相撲だけでなく、たとえば食事の時にでも、知らない魚の名前を教えてくれたり……。どうやって生きていくかと、生き方を教えてくれた師匠でした」
新師匠が千代翔馬の言葉を裏付けつつ、兄弟子として見続けてきた弟弟子を、こう評した。
「先代が一番よく褒めた関取なんです。珍しくね。うちの関取衆は誰ひとり褒められてないから。『一番稽古するのは千代翔馬だ』と、それは若い衆の頃から言われていました。気迫を前面に出して、なかなか相撲っぷりもいいし、先代が手塩にかけて育てたと言えます」
新師匠も弟弟子には大きな期待を寄せる。
「課題としては、冷静さがないんですよね。初日から3連敗するとか、気迫が前面に出過ぎる。先代が『頭を使って相撲を取れ』と言ったのは、そういうこともあるんだと思う。気持ちで相手に勝れば、相撲に勝てると思ってしまうタイプでね。 そこらへんは先代の言葉を宝物だと思って、自分なりにアレンジしていってほしい」
日本語が完璧ではない弟弟子をフォローするかのように饒舌に語り、さらに新師匠としての意気込みを語った。
「稽古量のわりには出世に時間が掛かったけれど、先代の相撲を毎日ビデオで見ていたのは、彼しかいない。素直で研究熱心で、前の晩に見た相撲を翌日の稽古場で試すんです。先に先に動く頭のいい子でもある。そういう関取を預かったというだけで、自分も幸せだと思うし、これに満足せずに、三役やもっと上を目指せるように一生懸命サポートします。新入幕って、ここからがスタート。自分も経験したことは伝えられる。彼には本当に期待しているんですよ」