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新生・九重部屋初の新入幕、千代翔馬。
2人の師匠の教えを胸に土俵に上がる。
posted2016/09/10 08:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
昭和の大横綱・千代の富士急逝の報に誰もが驚いたのは、夏のまっただ中、7月31日のことだった。
それから約1カ月、8月末の九月場所新番付発表の日。今となっては“先代”と呼ばれる千代の富士──かつての主の気配が、いまだ感じられるような九重部屋に、朗報が届く。先代九重親方にとって最期の場所となってしまった先の名古屋場所、西十両3枚目の地位で9勝6敗と勝ち越した千代翔馬が、新入幕を決めたのだった。
モンゴル出身の千代翔馬は、6年半の月日を費やして今年初場所に十両昇進。4場所で十両を通過し、この日、晴れて新入幕の日を迎えたのだが、手塩に掛けて育ててくれた師匠の姿は隣になかった。
代わりにその席には、部屋を継承し、新師匠となった元大関千代大海の姿があった。ネクタイをきりりと締め、いささか緊張気味に顔を引き締めた新九重親方は、神妙な面持ちながらも優しい視線を弟弟子に向け、若き師匠として記者会見に臨んだ。
手塩にかけた力士の活躍が一番の供養に……。
“初仕事”が慶事となったことに、
「最初の仕事が新入幕の会見となり、うれしいですね。責任をしっかり感じて、力士よりはプレッシャーがないと思って頑張っていきます」
そう言うと、仰ぎ見ていた師匠を亡くしたひとりの弟子として、現在の心境を語った。
「もう、切り替えていくしかないのでね……。まだ1カ月も経ってないので、パッパパッパと切り替えることはできないですけど。先日、話をしたんですが、いい稽古をして本土表で白星を積み重ねるっていうのが、先代の一番の供養になるということは、力士たちみんながわかっている。これからじゃないですか。関取衆は特に目の色を変えてね。自分もそうです。先代もここに座ってこの記者会見をしたかったでしょうから、そんな気持ちを僕が継いで行きます。千代翔馬が新入幕として胸を張って相撲取れるように、とね。今後、うちの部屋の力士も自分もそうだけれど、試されるというのかな。相撲ファンの人たちが意識して見てくれているということを、常に自覚して頑張っていかなきゃいけないと思っています」