濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
飯伏が不在でも“夏の両国”は大盛況。
DDTが紡ぐ「生の感情」の連続ドラマ。
posted2016/09/05 07:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
DDTのリングは展開が早い。1つの試合結果が思わぬ形で次の対戦カードにつながり、サプライズなら日常茶飯事。“文化系プロレス”とも呼ばれるエンターテインメント性の強い団体だけに、面白いこと、ファンに支持されることが何よりも優先される(現時点での“アイアンマンヘビーメタル級王者”はお笑い芸人の山里亮太だ)。
逆に、選手兼“大社長”の高木三四郎が最も嫌うのはマンネリ、すなわち停滞。だから、DDTではマッチメイクでも試合内容でもイベントの形式でも“新たな一手”が惜しげもなく繰り出される。これまで路上プロレスやキャンプ場プロレス、アイドルのライブとのコラボイベントなどを行なってきたDDTは、11月6日に音楽とプロレスの祭典『DDTフェス』を開催する。
さらに11月20日には台湾での興行も。高木曰く「どんどんプロレスを広げていかなくちゃいけない。そのためにDDTはいろんなものと闘って、勝ち続けなくちゃいけない」。
“3分の1”の両国でDDTは何を提示したのか。
昨年からは、年3回のビッグマッチが定例化した。春と夏に首都圏、秋から冬にかけてが大阪。来年3月には、旗揚げ20周年興行としてさいたまスーパーアリーナのメインアリーナに初進出を果たす。
それだけDDTが大きな団体になったということだが、それは年間の軸となる興行が三つに増えたということでもある。2009年から続いてきた夏のビッグマッチも“年に一度の総力戦”というわけにはいかない。
今年でいえば、3月にも両国国技館でビッグマッチを開催しているから、8月28日の両国大会は“タメ”の期間が5カ月しかなかったことになる。ファンにとっての“いざ鎌倉”感がどうしても薄れてしまうということだ。高木はそこに若干の不安を抱いていたらしい。絶対的なスターだった飯伏幸太がフリーの道を選んだことも、興行的にはやはりマイナスだ。
ただ大会が始まってみると、会場は満員になった。ビッグマッチが増えても、ファンは“夏の両国”への思いを薄れさせてはいなかったということだろう。それだけの信頼関係を、団体とファンが築き上げたということでもある。「やっぱりこういう時に、団体の底力というか、本当の力量が出るんじゃないかと思いましたね」と高木。