濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
飯伏が不在でも“夏の両国”は大盛況。
DDTが紡ぐ「生の感情」の連続ドラマ。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2016/09/05 07:00
石川の強烈なヒザをくらう竹下。石川が所属する“DAMNATION”は、この栄冠をさらなる躍進のキッカケにできるか?
“エリート”の王者に観客は肩入れしない。
今回に関していうと、8月に入り、メインイベントのカードが決まってからチケットの売れ行きが加速したそうだ。竹下幸之介vs.石川修司のKO-D無差別級選手権。これまで団体を支え、引っ張ってきた飯伏もHARASHIMAも絡んでいないフレッシュなタイトルマッチに、ファンは期待したのだ。
王者・竹下は同王座を史上最年少で獲得した21歳。小学生時代に入門を志願し、陸上競技で実績を残して高校生でプロレスデビューを果たした。現在は日本体育大学の学生。いわば“早熟のプロレスオタク”と“スポーツエリート”の両面を併せ持つ選手だ。
だが、なぜかファンが抱く印象は後者に偏っていた。どんな技でも器用にできてしまうがゆえに、感情移入するのが難しい存在だったのだ。いつの時代も、プロレスファンはエリートより雑草を好む。オリジナルの入場曲を「越中(詩郎)さんの曲みたいにしてください」とオーダーするような感性や、「プロレスラーが、DDTがナメられちゃいけない」とジムや酒席でも気を張る姿は、なかなか伝わらなかった。
そんな竹下が「実は苦労してたんですけど、そうは見てもらえなかった」というキャリアを経て団体最高峰のベルトを巻き、ビッグマッチのメインでタイトルマッチを行なう。ファンは彼に、この大一番で“竹下幸之介というプロレスラーの掴みどころ”を見せてほしかったのではないか。
10kgも減量して臨んだ挑戦者がベルトを奪取。
結果は“防衛失敗”だった。
トーナメントを制してタイトル挑戦権を得た石川は195cm、140kg。春には大日本プロレスのリーグ戦『一騎当千』でも優勝し、プロレス人生最大の充実期を迎えていると言っていい。下から突き上げるヒザも、マットに叩き落とす投げもすべてが規格外。しかも1カ月間の減量で体重を10kgほど落とし、キレのあるミサイルキックまで放ったのだからおそろしい。
パワーだけでなく、石川は幅の広い闘いという面でも竹下を上回ったわけだ。逆に竹下は、意地になってパワーで対抗しようとしているように見えた。何度も繰り出したラリアット。雪崩式ブレーンバスターも、ただ“落とす”のではなくしっかりと抱え上げてからの一撃だった。