濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
飯伏が不在でも“夏の両国”は大盛況。
DDTが紡ぐ「生の感情」の連続ドラマ。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2016/09/05 07:00
石川の強烈なヒザをくらう竹下。石川が所属する“DAMNATION”は、この栄冠をさらなる躍進のキッカケにできるか?
敗れはしたが、全力で戦う姿を初めて見せた。
石川のジャイアント・スラムで3カウントを聞いた竹下は「一生懸命頑張ったんですけど……出し切ったんですけど……」と悔しさを露わにした。おそらく、人前でそう言えたことが、彼にとってもファンにとっても最大の収穫だったのではないか。
かつては身体能力の高さから「自分が全力を出したらどうなってしまうのか」という遠慮があったという竹下。だが石川にそんな遠慮は不要だったし、意地になって石川にパワーで対抗する姿にエリートのクールさはなかった。その結果が王座陥落。もしかしたら、もっと別な闘い方があったのかもしれない。ただ、こういう負け方をしたからこそ、竹下は近い将来、またベルトを巻く資格を得たのだとも言えるはずだ。
大事なのはハッピーエンドよりも「生の感情」。
試合後のリングは、石川が所属するヒールユニット〈DAMNATION〉が占拠した。リーダーである佐々木大輔が「コイツ(石川)に挑戦する勇気のあるヤツはいねえのか!?」と挑発し、リングインした選手たちと睨み合う。笑顔で大団円を迎えてきた過去の大会のエンディングとはまったく違うピリピリとした空気だ。
「これがハッピーエンドなのか、バッドエンディングなのかは自分にも分からない」と高木は言う。
「ただお客さんは誰ひとりとして席を立たなかったし、みんな(その空気に)乗っていた。大事なのは生の感情。その中から何が生まれてくるかですよ」
石川は、勝って団体史上屈指の“負ける姿が想像できない”王者になった。竹下は悔しい敗北の先に未来を見たはずだ。そして団体としてのDDTは、必ずしもハッピーエンドではないかもしれない結末で観客の心を掴んでみせた。この変化は大きい。DDTのプロレスは、連続ドラマとしての“根っこ”をさらに強固なものにしたのだ。