松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
柔らかく人懐っこくなった松山英樹。
愛され度がわかるファンとの距離感。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/08/23 17:00
松山英樹は、日本で想像する以上に世界のゴルフファンから愛されている。英語も少しずつ上達中だ。
クラブ変更から始まった負の連鎖を断ち切るために。
その間に何があったのかといえば、4月のマスターズ後からいろいろ試していたクラブのすべてを、マスターズ以前と同じセッティングに戻したという変化があった。
だからと言って、試したクラブ自体が悪かったわけではなく、タイミングなどの複合的な問題だったのだと思う。そのときどきの心身の状態、日々変わるスイングやストローク、そして天候や成績。様々な要素と新しいクラブを試すこととが複雑に絡み合った結果、たまたま広がっていった負の連鎖。
連鎖反応ゆえに、絡み合った負の要素は彼の思考回路やメンタル面、周囲とのコミュニケーションや彼の言動、表情にいたるまで、どんどん影響範囲が広がりつつあった。それを食い止めるため、断ち切るために、松山は一旦リセットしようと決めたのだ。
「新たなことをやろうとして、なかなかうまくいかなくて、それを諦めて元に戻して、それがうまくいっている感じはある」
五輪は「辞めた時点で、羨ましいとかは全く思わない」。
歩み出した道半ばで引き返すには、勇気が要るものだ。努力してきた時間や労力をそっくり「捨てる」ことにもなる。だが、しがみつくより思い切って捨てることを松山は選び、その思い切りが結果的に彼の重荷を軽減してくれた。
「悪いのが全部だったのが、ショットが戻ってきたことで(悪いのが)1つ減って、気分的には楽にプレーできている」
「捨てた」ことで、たとえ結果的であれ一時的であれ、ショットが戻り、自信が少し戻り、「いつも通り」にスコアをまとめる松山のゴルフが戻り、明るい笑顔も戻った。サバイバルな世界で息切れすることなく生き抜いていくためには、長期的、短期的、どちらの視点も求められる。
「捨てる」決意とほぼ並行して、リオ五輪を「辞める」決意も固めた。そのリオ五輪はジャスティン・ローズが金メダル、ヘンリック・ステンソンが銀、マット・クーチャーが銅に輝き、素晴らしい展開となったが、「辞めた時点で、羨ましいとかは、まったく思わないので」。考え抜いて下した決断を遡って後悔することは決してしない。