ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
アディダスに続きナイキまで……。
超大手がゴルフ市場を去る理由。
posted2016/08/14 08:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
世界が最高のスポーツの祭典で色めく裏で、1枚の簡素なリリースがゴルフ界を大きく揺さぶっていた。
リオデジャネイロ・オリンピック開幕を間近に控えた8月3日午後、世界最大手の総合スポーツ用品メーカーである米ナイキ社が、ゴルフ事業の展開を大幅に縮小すると発表した。シューズやウエアといったゴルフのアパレル関連部門に注力するべく、ゴルフクラブ、ボール、キャディバッグといった用具ビジネスからの撤退を決めた。
あまりに突然の発表で、日本でも身内の社員や契約プロゴルファーですら、多くがニュースサイトやSNSで第一報を耳にし、困惑した。
もちろん、発信元の米国内での衝撃は一層大きなもの。用具部門からの撤退発表の翌朝には、フィル・ミケルソンやヘンリック・ステンソンが契約する同業のキャロウェイゴルフの株価が約6.5%上昇。影響は市場に即座に伝達したのである。
タイガー・ウッズとともに市場を席巻してきた。
ナイキ社がゴルフ市場に参入したのは1984年。現存の主要メーカーからすれば、いまも後発の部類に入る。'85年にスペインのスーパースター、故セベ・バレステロスが同社のゴルフシューズを履き、ナイキ社はプロゴルフ界での一歩を踏み出したが、勢いを加速させたのは1996年、プロデビュー間もないウッズと年間800万ドル(5年間)という巨額契約を結んでから。'98年に初めて同社銘柄のボールを開発販売し、2002年にクラブがそれに続いた。
当時のウッズの契約金は、年間2000万ドルに膨らんでいた。'05年にミシェル・ウィー、'13年にローリー・マキロイが契約プロに加わり、そのたびに話題になった。
ところが近年の売上高は2013年の7億9200万ドルをピークに減益傾向に転じ、今年5月の時点では前年の7億6900万ドルから7億600万ドルと同期比で約8%後退。米金融情報ブルームバーグが伝えたところによれば、あらゆるスポーツ用品を扱う同社の中で、ゴルフ部門はワーストの不採算事業になっていた。