松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
柔らかく人懐っこくなった松山英樹。
愛され度がわかるファンとの距離感。
posted2016/08/23 17:00
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
ウィンダム選手権最終日21日の夕暮れ時。3位になった松山英樹の囲み取材をしている真っ最中に、背後から若い米国人女性が大きな声を上げた。
「マツヤマサーン、シャシン、トッテ、クレマスカ?」
なかなか上手な日本語だった。まだ取材中だったため、松山は「はーい、ちょっと待ってね」と彼女に言葉を返した。だが返した途端、「あれっ? フツーに日本語で返しちゃってるし」と愉快そうに笑った。
外国人が日本語で話しかけてくるときは、質問の日本語だけを一生懸命に覚えてくるパターンが圧倒的に多い。日本語がわかるものだと思ってこちらも日本語で応答すると、意思疎通できないなんてことがしばしば起こる。
2013年から米ツアーに挑み始めて以来、早3年。松山はそんな米国における外国語文化の特徴を自分なりに把握し、英語を身に付ける一方で、自身は日本語文化や日本人らしさをアピールするアンバサダー役をいつの間にか担いつつある。
松山から周囲の人へのリスペクトが漂ってくる。
取材を終えて振り向くと、日本語で声をかけた米国人女性の周りには米国人男性も大勢待っていた。松山が一歩近づくと、彼らは「イエー!」と一斉に拍手と歓喜の声。興奮している5~6名の男性たちに引っ張りだこにされながら、松山は満面の笑顔でセルフィに収まり、次はカップルとおぼしき男女に挟まれて記念撮影。
次々にスマホを向ける米国人ファンに自然な笑顔で応える松山の雰囲気。尊敬とか畏怖とか、そんな大袈裟なものではないのだが、周囲の人々に対するリスペクトのような静かな念が彼の体全体から漂っている。弱さを知った者が以前より強くなるような、辛さを知った者が以前に増して優しくなるような、以前とは少し異なる落ち着いた空気。ゴルファーに当てはめるなら、不調を経験して復活した者が、以前より一回り大きくなるような、そういう空気。
今、松山には、そんな変化が見て取れる。