野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
苦戦が続いても、若虎強化は辛抱強く。
金本阪神、“超変革”のロマンを追う。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/06/30 07:00
積極的な若手起用が特徴の金本阪神。プロ6年目の中谷は、監督の期待に応えることができるか?
前途多難の“超変革”だが「時間に甘えない」。
開幕直後、金本阪神への期待感を報じるメディアをたしなめるかのように、球団幹部が「優勝を目指すのは前提だが、3年スパンでチーム強化を考えなければいけない」と話していた。育成と勝利をともに追い求めるチーム改革は一筋縄ではいかない。目先の現実にとらわれると、将来のビジョンを見失う。黒星がかさみ、優勝の可能性が遠ざかるなか、いま一度、昨年10月に金本新監督が掲げた所信表明を思い起こしたい。
「1回チームを立て直して、再建する。しかも結果を出すのは、かなり厳しいと思います。時間はかかるかもしれませんが、時間に甘えないように、できるだけ早く結果が出るように。勝ちながら再建できるように。そこを目指していく」
新しいリーダーは、いまの苦境を予期していたかのように、当初から危機感をにじませていた。人気球団の阪神が失速すれば、監督がスケープゴートになるのは宿命だ。実際にツイッターなど、SNSでも打順編成などを批判する声も出始めている。若手中心のオーダーを組み、試合運びに拙さがあるのは確かだろう。
「若い選手はミスを恐れなくていい」
26日の広島戦でも、つらい現実を突きつけられた。1点リードの9回に追いつかれ、最後はなんてことはない飛球を中堅中谷と左翼俊介が激突落球してサヨナラ負け。試合後、金本監督は声を絞り出した。
「高いフライだから、お互いパッと見るとか。中谷の若さかな。俊介も見ないといけない。でも、ぶつかっても捕りにいっている。結果的に落ちてしまったけど(譲り合って)お見合いして落とすより全然いい」
この日、サヨナラ失策を犯した中谷は2度もダイビング好捕のスーパープレーを演じている。昨季まで、一軍でわずか2安打だった男の強打、好守のハツラツとした姿は、我慢する指導者のタクトなしには、生まれなかっただろう。金本監督は就任当初から何度も言っている。
「若い選手はミスを恐れなくていい。積極的なミスは、あれこれ言わない」
指揮官が発するメッセージには、決して揺れ動くことのない意思が表れている。いまのタイガースには若者を信じ、新たな地平へと導くロマンがある。まだ道半ば。生まれ変わるため、敗北をかみしめながら、初志を貫く。