野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
苦戦が続いても、若虎強化は辛抱強く。
金本阪神、“超変革”のロマンを追う。
posted2016/06/30 07:00
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
「明日から二軍だ」
首脳陣から降格を告げられた若手は荷物をまとめ、キャリーバッグを引きながら、野球記者の目の前をとぼとぼと歩いていく。落胆や悔しさがにじむ光景は、プロ野球取材の日常である。
一軍は「狭き門」だ。若者に与えられるチャンスには限りがある。空回りして凡ミスしたり、絶好機で無残に凡退する。たとえ快音を発しても、相手先発の左右などで、次戦はスタメンを外れ、そのうち調子は下降線……。必死にしがみつこうとしても、ふるい落とされ、選ばれし者だけがスポットライトを浴びる舞台だ。
早いもので、シーズンも折り返した。今回は金本阪神が推し進めるスローガン「超変革」の中間レポートである。つい先日、球団首脳と雑談するなかで、こんなことを聞いた。「打ってもなかなか使ってもらえないものなのに、打ってなくても使ってもらえることもある」。示唆に富んだ指摘だろう。ここには金本知憲監督の若手に対する起用スタンスが端的に表れている。
とりわけ、6月中旬に一軍昇格してきた、プロ6年目、23歳の中谷将大を評する言葉からは、若手とどう接しているのか、そのスタンスが浮き彫りになって興味深かった。将来を背負う後進の育成は、どの世界でも永遠のテーマだ。そのヒントにもなる、味わい深いコメントを、スコアブックをめくって追っていこう。
二軍降格の不安を取り除き、発奮を促す。
◆逃げ道を断ってやる
〈19日ソフトバンク戦、7回表の一塁守備から途中出場し、その裏、1死三塁で中堅フェンス直撃の適時二塁打。プロ初長打、プロ初打点だった。9回は左前打で2安打をマークした〉
金本監督は「彼に『2試合スタメンやる』と言っていたのでね。右投手とか、雨で中止になった関係でチャンスを多めにやると」と振り返る。4日前、15日オリックス戦に左腕松葉と向き合う今季初スタメン。16日も左腕山崎福也を相手に先発に名を連ねたが、雨で流れていたのだ。
指揮官はさりげなくフォローする。まず「2試合スタメン」と本人に明言した点だ。若手はいつ二軍に落とされるか分からない不安を抱く。心の重荷を外してやり、同時に分かりやすい目標を与え、腹をくくらせる意図もあっただろう。言葉通りにチャンスを与え、発奮させた。