Jをめぐる冒険BACK NUMBER
鹿島の“真髄”を象徴するあるプレー。
浦和の流れを覆したFWのプレス。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/06/14 11:30
小笠原満男を中心に作り上げられた老獪なチームに、スパイスを加える金崎夢生。絶妙のバランスで今の鹿島は出来ているのだ。
前で取れないなら、水際で止める。
それにしても感心させられるのは、鹿島のゲーム運びだ。
昌子も言うように前半の鹿島は、とりわけ立ち上がりの20分間は、浦和に翻弄されていた。流動的に動く浦和の1トップ2シャドーを捕まえられず、面白いように縦パスを入れられ、自陣に押し込まれてしまう。
だが、それならそれで焦らずに我慢し、嵐をやり過ごせるのが鹿島の強みだ。右サイドバックの西大伍が言う。
「本当はもっと前から取りに行きたかったんですけどね。前半は本当に苦労させられたけど、最後のところでなんとか体に当てようと思っていました」
前でボールを奪えないのなら、最後のところだけはやらせない――。そうした想いはピッチで体現されていた。武藤雄樹のシュートを体を張ってブロックし、興梠慎三へのクロスを寸前のところでクリア。こうして決定機を許さずにいると、カウンターを繰り出して少しずつ反撃し、ハーフタイムを境に流れをひっくり返してしまった。
柴崎が感じた“得点の匂い”を浦和は見逃した。
先制点の場面、宇賀神友弥のミスパスをカイオが拾ったとき、柴崎岳は自陣のペナルティエリアにいた。そこから相手のペナルティエリアまで一気に駆け上がり、カイオからパスを受け、ファーサイドに走り込んだ金崎にアシストした。
タイミングを見計らって金崎にパスを通したセンスと技術は抜群だったが、そもそも“得点の匂い”を嗅ぎ取り、長距離を走っていなければ、このゴールは生まれていない。
このとき、“失点の匂い”を嗅ぎ取った浦和の選手たちが、どれだけいただろうか。少なくとも柴崎以上のスピードで自陣に戻ってくる選手はいなかった。
先制してから、浦和に流れが傾き始めたあとの石井正忠監督の交代策も的確だった。
66分にピッチに入った右サイドハーフの杉本太郎は、ファーストプレーで阿部に激しいタックルを見舞った。ファウルになってしまったが、果たすべき使命がしっかり整理されているようだった。74分にFWとして投入された鈴木優磨は、前線からのプレスを強めただけでなく、終了間際にPKまで獲得。87分に投入された永木亮太は、ボールに対する鋭いアプローチでクローザーとしての役目をまっとうした。