プロ野球亭日乗BACK NUMBER
チームの雰囲気を変える男の帰還。
高橋巨人は阿部慎之助を待っていた。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/06/03 16:30
交流戦1日目のオリックス戦、阿部は復帰早々に2ラン本塁打を放った。
チーム状態が下降する中で、巨人は阿部を待っていた。
その原監督からバトンを受けた高橋由伸監督1年目の巨人は、開幕ダッシュに成功したが、徐々にチーム状態は下降線をたどっていた。
昨年から続く貧打は相変わらずで、負の連鎖のように、チャンスになると余計に打てなくなるタイムリー欠乏症も深刻だ。投手が力投しても援護ができず見殺しにし、そのうちにマウンドも踏ん張れなくなっていく。
そして5月17日のDeNA戦から10試合で7連敗を含む1勝9敗と大きく負け越し、借金生活に突入していた。5月29日の阪神戦で連敗は止めたが、チーム状態がどん底であるのは誰の目にも明らかで、何とか歯止めをかけなければならなかった。
だからチームは、阿部を待っていたのである。
開幕直前に右肩の故障が出た阿部は、2カ月以上のファーム生活を余儀なくされていた。5月24日には右肘痛も発症し、まだまだ肉体的には万全ではなかった。ただ、交流戦では指名打者での出場ができる。少し早かったが、チームを変える起爆剤として高橋監督は阿部の昇格を決めた。
全盛期とは違うことを、自分が一番知っている。
そうして5月31日のオリックス戦に「5番・指名打者」で今季初先発した阿部は、阿部であることを証明した。
逆転を許し1点を追う6回2死一塁。オリックス先発の西勇輝投手の外角高めに抜けたチェンジアップを逃さず捉えてフルスイングした打球は、ライナーで右翼席に突き刺さる逆転の1号2ランとなった。
「いいスイングができた」
こう語った阿部の言葉にも、もちろん強い思いが込められていた。
肉体的にもボロボロで全盛期の力はないことを、一番知っているのは自分自身である。
それでもチームを変える起爆剤として呼ばれた一軍で、自分が何をしなければいけないかは分かっていた。
思い切りバットを振ることだった。