プロ野球亭日乗BACK NUMBER
チームの雰囲気を変える男の帰還。
高橋巨人は阿部慎之助を待っていた。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/06/03 16:30
交流戦1日目のオリックス戦、阿部は復帰早々に2ラン本塁打を放った。
「僕に求められているのは長いのを打つこと」
去年のクライマックスシリーズ。チームの勝利のためにバットを短く持って、安打狙いの打撃に徹したが、改めて振り返って心に決めたことがあった。
「ちょんちょんとやればヒットになる。でも結局、あれもチームのためにはならなかった。ヒットを打つだけだと点にはならなかった。結局、僕に求められているのは長いのを打つこと。そこで何が大事なのかと思ったら、フルスイングできる態勢を作ることなんです」
今年の開幕前にインタビューしたときに、阿部はこう今年の自分の打撃への決意を語った。故障でファームで過ごしていた間も、スイングができるようになってからは、連日朝の7時半にはジャイアンツ球場にやってきて、ひたすらマシンと向き合って打ち続けた。
この試合でも第1打席からフルスイングを見せたが、久々の一軍の投手の球になかなか目が慣れなかった。それでもスイングするたびに徐々に修正して、3打席目には結果を残してみせたのだった。
技術やパワーは決して衰えているのではない。コンディションさえしっかり維持できれば、まだまだ阿部は阿部である。
そのことを証明した一撃だったわけである。
結果が出なければ、ユニフォームを脱ぐ覚悟か。
「すぐにこうして結果を出すのはやっぱりさすがだな、と思いますね。そういうものを望んで期待していましたし、その期待にしっかり応えてくれたかなと思います」
高橋監督もこう絶賛した。
あとは自分との戦いであることも阿部は分かっている。
「やっぱり一番、難しいのはコンディションですね。キャッチャーをやって一発(ファウルチップを)食らったらお終いかもしれないですしね。でもダメだったら……その覚悟でやっていく」
阿部慎之助は阿部慎之助であるために――結果が出なければ、すっぱりユニフォームを脱ぐ覚悟を胸の内に秘めている。