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錦織圭から消えた脆さと淡白さ。
「負けにくい選手」の戦術選択力。
posted2016/05/28 10:50
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
試合運びとしては失敗、と見るべきだろう。世界ランキング52位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)との3回戦。錦織は最初の2セットを連取したが追いつかれ、ファイナルセットでなんとか振り切った。
5セットの総獲得ポイントは錦織が151、ベルダスコが154。数字だけを見れば、負けていてもおかしくない試合だった。
苦戦の要因の第一は、相手の好調さだろう。クレーコートの前哨戦、4月のブカレストを制している。今大会の1回戦では、シード選手にストレート勝ち。そもそも自己最高7位、錦織にとっては過去1勝2敗(途中棄権の1敗を含む)の難敵なのだ。
その実力者が、立ち上がりから全力で攻めてきた。しかし錦織もあわてず堅実に返球し、甘いボールにはカウンターを見舞った。錦織が主導権を握り、第1セットを奪った。
互いのフォアを警戒した神経の削り合い。
第2セットはベルダスコが少しペースダウン、高い弾道のボールを交ぜるようになった。このチェンジ・オブ・ペースが絶妙だった。
中でも、錦織のバックハンドを狙う、弾道の高いトップスピンとスピンサーブがやっかいだった。
錦織はバックハンドは得意だが、顔より高い打点で捕らされると、さすがに自在なコントロールは難しい。無難にクロスに返球すれば、左利きのベルダスコはフォアハンドで待ち構えている。すかさずダウン・ザ・ラインを深くえぐるか、クロスに叩いてくる。
錦織がなんとか相手のバックハンドをついて、自分のフォアハンドとの打ち合いに持っていっても、ベルダスコはドロップショットを多用し、攪乱してきた。
錦織は我慢のプレーを強いられた。互いにフォアハンドでラリーを支配したいのは同じ。なんとかそれをさせまいと、互いに相手のバックハンドをつく。神経を削り合うようなラリーが続いた。
この時点ですでにベルダスコがペースを握っていたと見ることもできる。それでも錦織は、終盤のブレークでなんとかセットを奪った。