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錦織圭は第5ゲームで何をした?
試合の展開を激変させた新戦術。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2016/05/26 11:20
「格下の相手にもつれた試合をしがち」という錦織のクセが、今大会では全く顔を出していない。期待感は高まる一方だ。
“男としてツライ”ことを除けば完璧な勝利。
会心のコンダクターぶりに、錦織の言葉も弾んだ。第1セットのペースチェンジについて、記者会見でこう説明した。
「どちらかというと、打ち合いをあきらめて――なかなか、男としてはツライ判断でしたけど(笑)」
大会はまだ序盤戦。体力温存のためにも、できるだけ試合をもつれさせたくない。ショットの威力でマッチョぶりをアピールしても、一文の得にもならないのは自明だ。
別の引き出しを開け、異なる戦術を取り出すのは「昔から得意」。“男としてツライ”ことを除けば、何の苦もなくリズムを変えて、流れを引き寄せた。
クズネツォフは上り調子の選手。今季は全豪オープン16強、クレーのバルセロナで8強など、侮れない相手だった。だが今の錦織は、これを一蹴してしまうのだ。
クレーコートの戦い方に揺るぎない自信を得たことが大きい。「できるテニスの幅が広がっている」と錦織は言う。これまでのように、ハードコートで見せるような速攻を挑んでもいいし、じっくり戦っても勝てる、あわてる必要はまったくない。そんな余裕が、緩急自在のタクトさばきを生んだに違いない。
会心の勝利と言えるだろう。退場する錦織にサインや写真撮影をせがむファンが殺到したが、これに応える時間は普段よりかなり長かった。