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錦織圭は第5ゲームで何をした?
試合の展開を激変させた新戦術。
posted2016/05/26 11:20
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
指揮者がオーケストラを思いのままに導くように、錦織圭が指揮棒のひと振りで試合の流れを変えた。世界ランキング40位のアンドレイ・クズネツォフに、6-3、6-3、6-3。わずか1時間48分で、全仏3回戦進出を決めた。
立ち上がりは相手にペースを握られ、1-3とリードを許した。クズネツォフとはこれまでに一度対戦し、途中棄権で敗れている。ただ、それは約6年前のこと。久しぶりの対戦で「様子を見すぎた」という錦織は、相手の得意とする“たたき合い”に付き合ってしまった。
クズネツォフのグラウンドストロークの球質は、回転量の少ないフラット系。これはロシアの男子選手に共通する特徴だ。安定性では順回転のトップスピンに及ばないが、球速が出る。
「自分から打っていなかった」という錦織は、相手のスピードボールに振り回され、後手に回る場面が多かった。
戦術の引き出しを開け、弾道と角度を操る。
第1セットの第5ゲーム、錦織がタクトを振った。
全体的に球速を落とし、弾道の高いボールやショートアングル(角度をつけて、サイドラインとサービスラインが交わるあたりを狙うショット)などで変化をつけた。
それらをラインぎりぎりに、丁寧に配球した。ボールの勢いを犠牲にしても、ショットのバリエーション、コースや球速の変化を生かそうと試みたのだ。
気持ちよくストロークを打ち続けていたクズネツォフは、この転調についていけない。ボディバランスを崩す場面もあり、にわかにミスが増えた。
「ちょっとテンポを変えないといけないと思い始めたので、高いボールもまぜたら、だいぶリズムも変わった」
してやったり。こうなれば、錦織のペース。ラリーを支配するようになったことで余裕も生まれ、第2セット中盤以降、ベースラインでの優位性を誇示するような強打の連発も見られた。