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筋肉の性質で見る競技別ピーク年齢。
体操、フィギュア、マラソン……。
text by
増田晶文Masafumi Masuda
photograph byAFLO
posted2016/05/08 09:00
2015年の世界体操で活躍し、NHK杯でも2位に入り五輪に内定した村上茉愛。
女子体操界の「17歳限界説」の根拠は……?
一方、女子選手は事情が変わってくる。
まず女子体操は跳馬、段違い平行棒、平均台、ゆかの4種目で競う。いずれも筋瞬発力の比重が高いうえ、アクロバティックな技が求められる。身軽でしなやかな動きに加え、可憐さも欠かせない。
そんな女子体操界では、「17歳限界説」なるものがまことしやかに語られているという。確かに、10点満点を連発したときのナディア・コマネチは14歳だった。彼女以降どころか、それ以前でもミドルティーンの五輪メダリストは数多い。ローティーンの中国選手が、年齢を上乗せ詐称して五輪に出場したという疑惑報道も記憶に新しい(近年、16歳未満の女子選手は参加できなくなった)
「17歳限界説」の根拠を探ると、この年齢あたりから女性ホルモンの分泌が盛んになり、男子に比べて10%以上も貯蓄脂肪がついてしまうという事実にゆきつく。
脂肪がたまると、当然ながら体重も増える。体重が1kg増えれば、膝や股関節に3kg以上の負担がかかるとされているから、軽快で俊敏な動きにとって余分な脂肪は邪魔でしかない。柔軟性も17歳あたりがピークで、その後は衰えゆく一方……これは大変!
筋トレや減量で体質変化に抗うのは簡単ではない。
女子フィギュアスケートも似たような状況にある。優勝の成否を決めるジャンプは、より高く跳び、キレ味鋭く回転しなければいけない。そのためには、なるべく体重は軽く。細身ながらも筋力が発達していなければ。
女子フィギュア界では25歳にもなればベテランと言われ、30歳を超えるトップ選手はまず見当たらない。
余談ながら、思春期からつく脂肪は乳房やヒップ、太腿といった部位をたおやかにし「大人の女の魅力」を醸す。しかし、こと女子体操やフィギュアにおいては、かような肉づきが採点に反映されるわけではないのだ。
筋トレ原理主義者なら「17歳からの体質変化に対しては、太った分をカバーするだけの筋肉をつければいい」と即断しがち。ところが、男と女が同じトレーニングをこなしても、同じ筋肉量を得ることはかなわない。筋力のアドバンテージは、これも性ホルモンの関係で男に与えられる。女子が筋肉をつけるのは容易ではないのだ。
ならば減量か。とはいえスイーツをガマンしたとしても、染色体XXに刻まれたDNAが脂肪を呼び込むのだから、なまなかのことでは成功できまい。
少女から大人への端境期は、女子体操選手たちにとって、のっぴきならない分水嶺――果たして、リオ大会代表には16歳の杉原愛子、そして村上茉愛と寺本明日香の20歳コンビが選出された。私にすれば娘のような年齢だが、こと村上、寺本は体操業界だとすでにベテランの域に達しているとみなされているのだろうか。いずれにせよ、17歳の壁を乗り越えた「大人の女」2人がリオでどんな演技をみせてくれるか大いに注目したい。