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学生相撲出身力士と中卒力士との違い。
“相撲力”とは……一体何なのか。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/05/06 10:50
関西学院大学から化粧まわしを送られた宇良。同大学相撲部創部125年で初のプロ入りであった。レスリング経験を活かした多彩な技を持つのも人気の理由。
“チカラビト”“もののふ”には簡単にはなれない。
心も柔軟でのびしろがある、未完成な十代のうちに、相撲部屋で24時間365日、力士としての修業の日々を送る。早朝のうちに稽古をし、ちゃんこを食べて昼寝――これは体の硬い朝に徹底的に肉体を駆使し、空腹のままちゃんこをかきこむことで栄養分を十二分に摂取できる。その後に寝ることで、成長ホルモンを最大限に分泌できるのだ。「プロ力士としての生活サイクル」を早い時期から染みこませ、本能的に体得し、刷り込まれ、それは習性となる。
番付も三段目になると、やっと雪駄を履けるが、それまではずっと下駄履きだ。これは、相撲に重要なバランス感覚を養うのにも通ずる。稽古、食事、睡眠、考えてみれば生活のひとつひとつ、そのすべてが「力士になるため」の修業である。「力士としての体幹=芯の太さ」は知らず知らずのうちに培われ、目に見えない重みとなり「相撲力」として宿るのかもしれない。
そんな話を徒然にしていると、ある年配の行司が言った。
「だから“相撲取り”には誰でもなれるんだよ。でも力士――古くは“チカラビト”とか“もののふ”などとも読んだけれど、そういう存在は今の角界からは、なかなか出て来ないかもしれないね」
この五月場所、鹿児島県の離島である徳之島から15歳の少年が上京し、角界の門を叩いた。
190センチ123キロの体躯で、海に潜り夜光貝を採り、猛毒を持つハブを捕まえ、闘牛の牛を世話していたという“超大型自然児”だ。相撲強豪高校への進学を選ばず、その可能性を「大相撲」に賭けた。
相撲力を存分に発揮する、真のチカラビトとなるか。