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学生相撲出身力士と中卒力士との違い。
“相撲力”とは……一体何なのか。
posted2016/05/06 10:50
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
NIKKAN SPORTS
この五月場所、関西学院大学出身の宇良が新十両として土俵に上がる。
相手の懐に低く潜り込んで多彩な技を繰り出す小兵力士が、十両の土俵を沸かすことになるだろう。
一方で、三月場所を最後に元学生横綱である若圭翔がひっそりと引退した。
ちょうど10年前の五月場所、幕下15枚目格で初土俵を踏み、7戦全勝優勝。昇進内規で言えば初の1場所での関取昇進が確実とされたが、番付運の悪さに泣かされた。その直後からケガの影響もあり、低迷。最後の場所では序二段まで番付を落とし、不運な相撲人生にピリオドを打った。引退後は日大職員として第二の人生を送ると聞く。
学生相撲出身の力士はこれまで216人を数え、十両以上の関取になったのは、宇良で116人目となる。関取昇進の確率は全力士の8~10パーセントと言われており、およそ10人にひとりの割合でしかないのだが、学生相撲経験者に限れば、実に半数以上が関取に昇進していることになる。ときに遠藤や御嶽海のように、髷も結えないザンバラ髪でのスピード昇進が話題ともなるが、学生出身力士(中退は除く)の横綱昇進例はわずかにひとり、1973年に昇進した輪島だけだ。大関昇進も2007年の琴光喜以来、その声を聴かない。
先日、30代、40代の中卒“叩き上げ”力士OBたちの話を聴く機会があった。
「学生相撲出身の力士って、どこか“体の芯が軽い”感じがする。いくらアンコ(体重の重い大型力士)でも、重みが感じられないというか……。“相撲力(すもうぢから)”がないんだよ」
“相撲力”とはいったい何なのか?
相撲力とは、角界独特の言葉でもあり、一言では説明しがたい。けして鍛えられた筋肉が生み出す“パワー”ではなく、地にしっかりと足がついたような地力の強さ、足の裏やその指先から丹田を通じて腰に伝わる力強さ――置き換えれば“力士の底力”とも言えるだろうか。
学生相撲出身力士は、おしなべて技術的な巧さを備え、すでに自分の相撲の型が完成されている。ときに批判されがちなほどに、立ち合いの駆け引きにも長ける。
学生相撲の大会はその多くが一発勝負のトーナメント方式だ。団体戦などは特にその大学名を背負い、絶対に負けられないプレッシャーとも戦う。ある親方が言う。
「アマチュアの“相撲”は競技であり、プロの“大相撲”とは別物だと考える人もいる。大学では“勝つための稽古、負けないための稽古”をするんだよね。われわれ角界の力士たちは“強くなるための稽古”をする。大相撲には『3年先の稽古』という言葉があるでしょ」
今積み重ねた稽古が3年後に実るのだ。しかし、4年間と時間を限られた学生たちは、そんな悠長なことは言っておられず、目に見える成績を、実績を残さねばならない。15日間、一番一番、今日負けても明日があるさ――とは言えない世界を勝ち抜いて来る。ゆえに一瞬の勝負には強いが、角界に入門してまずぶち当たる壁が「スタミナの違い」なのだともいう。