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学生相撲出身力士と中卒力士との違い。
“相撲力”とは……一体何なのか。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/05/06 10:50
関西学院大学から化粧まわしを送られた宇良。同大学相撲部創部125年で初のプロ入りであった。レスリング経験を活かした多彩な技を持つのも人気の理由。
「プロの世界はスタミナと立ち合いの圧力が全然違う」
ふと、某部屋のおかみさんの言葉を思い出す。
「もうね、聞いて聞いて! このあいだ大学の相撲部の人たちが稽古に来ていたんだけどね。うちはみんな若い子ばかりで序二段、三段目でしょ。基本の稽古を毎日1時間半以上もみっちりやるのね。これに、タイトル持っているような大学生でも、付いてこられなかったの。いつもうちの子たちのことを、『なんて弱っちいんだ!』って歯がゆく思ってたんだけど(笑)。『もうびっくりしたわよ。あなたたちはすごい! お兄さんたちがへばってるなか、みんな平気な顔してこなしてるんだから。自信持っていいからね!』って、思わずみんなを褒めちゃったのよぉ」
アマ横綱の大翔丸が入門直後、「プロの世界はスタミナと立ち合いの圧力が全然違う。まずはこれを克服しないと」と話していたことがあったが、スタミナのなさや圧力は日々の稽古と鍛錬で克服できる。しかし、叩き上げ力士OBたちが言うところの「相撲力」は、いかにして備わるのだろうか。元関脇富士櫻の先代中村親方は、
「うちは学生は取らないよ。真の力士を育てるためには、中卒だ。心も体も一番成長する時期に、それこそ小学生時代から育てたいくらいでね。みっちりとたたき込めるのは十代のうちなんだよ」
そうきっぱりと断言していたものだった。
十代のうちに何を学ぶか。
もちろん相撲に限らず、将棋や囲碁、芸事の修業の世界でも同じことが言えるだろう。'02年に最年長本因坊となった加藤正夫は、10歳で囲碁道場の内弟子となっている。その当時、インタビューでこのように語っていた。
「美しいものの本質を捉える感性は、無垢な子どものうちに養っておく必要がある。碁もまったく同じで、いい碁を打っているときの盤面は絵画的な美しさを宿しているものですが、それを“美しい”と受け止められる感性がなければどうしようもない。展開をこまかく読んでいくときの数学的思考は、あとからじっくり教えられますが、感性はやはり子どものうちでなければ育み難い。できるだけ早く碁を覚え、十代のうちになにを学ぶか。それがその人の人生を決めるといっても過言ではありません」