プレミアリーグの時間BACK NUMBER
「サー・クラウディオ」の声も!?
レスターを導く“好人物”ラニエリ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPlumb Images/Leicester City FC via Getty Images
posted2016/04/29 11:00
選手を「息子たち」と呼ぶラニエリ。3月14日、オーバーヘッドでゴールを決めた岡崎慎司をハグで出迎えた。
懐の深さでチームに好感を抱かせた。
今にして思えば、チームには今季の基本戦術となる高速カウンターの下地が昨季中に築かれ始めていた。攻撃を締め括るジェイミー・バーディーが、プレミアのピッチでゴールを決めはじめたのは昨季後半。前半戦で止まらなかった失点数は、CBにロベルト・フートを獲得(当時レンタル移籍)した昨冬から減少方向にあった。そしてチーム全体には、最後の2カ月を7勝1敗1引分けの快進撃で降格を回避した終盤戦で、プレミアでも通用するという自信が芽生え始めていたと言える。
一方、11年ぶりにプレミアに戻ったラニエリには、年輪を重ねたことによる懐の深さがあった。戦術論でチームを振り回したチェルシー時代とは違い、持ち駒の特性を観察する余裕を備えていた。ラニエリの指導ぶりを訊かれて、「ホント、何してるんですかね?」と冗談でかわしたのは今季新戦力の岡崎慎司だが、就任当初のラニエリがしばし静観していたことは事実。
既存の選手たちにすれば、慕っていたナイジェル・ピアソン前監督がプレシーズンを前に解雇されたショックもあり、新監督が有無を言わせず持論を持ち込めば反感を覚えていた可能性もある。逆に、まずは昨季までのチームの在り方を確認する姿勢を示したラニエリに昨季の主力組は好感を抱いたことだろう。
選手を「私の息子たち」と呼ぶ。
ADVERTISEMENT
ラニエリ自身は、母国イタリアのメディアに次のように語っている。
「就任早々に話をしたところ、選手たちはイタリア風の(手堅い)戦術に少し抵抗があるようだった。そこで彼らに約束したんだ。『君たちを信じよう。私のチームの一員として常に全力を尽くしてくれるのなら、戦術論は控え目にしておく』とね」
前任のピアソンが、選手と一緒に闘志を剥き出しにして戦う兄貴分のような監督だったとしたら、ラニエリは一歩引いて選手を見守る、理解ある父親タイプだ。選手を「私の息子たち」と呼んでもいる。
練習場での笑顔といい、週2日オフの基本スケジュールといい、「息子」に対するスタンスは寛容。放任とまではいかないが、前線の主役となっているバーディーとリヤド・マフレズにしても、ラニエリ風に言えば「心と魂を捧げる」となるハードワークと引き換えに攻撃面で自己表現の自由を「父親」から与えられたことで、それぞれ快足センターFWと技巧派ドリブラーとしての才能が開花したように思える。