指揮官の舌戦や神経戦と無縁という珍しい優勝争い。

　ホームでは1敗のみで優勝カウントダウンに入ったチームを見守るファンの手による横断幕には、黒地にラニエリの顔と『The Godfather』とある1枚がある。「息子たち」を束ねる「イタリア人親分」への表敬だ。但し、「ラニエリのレスター」のイメージは、血生臭いマフィアの復讐劇ではなく、前述した『花嫁のパパ』のような笑いと涙の世界。

　仮に、対戦相手、審判、そしてメディアにも牙を剥くピアソンが監督のまま今季の優勝争いが実現していたとしたら、レスターが演じるサクセスストーリーも万人の心の琴線に触れるほど「ハートウォーミング」な物にはなり得なかっただろう。主人公の1人には、「迷監督」と言われた昔から「好人物」としての評価は一貫しているラニエリがいるのだ。

　これは、優勝を争ってきたトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督も誉められるべきことだが、指揮官同士による時に毒々しい舌戦や執拗な神経戦とは縁のない僅差のプレミア優勝争いも珍しい。

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　ホームでウェストハムと引分け、巷ではバーディー退場処分を含む判定が物議を醸した34節後、淡々と「我々は力を振り絞って戦っている。より良い内容でより多くの勝利を上げる競争相手が現れたら素直に讃えたい」と語ったラニエリの言葉は、優勝を争う指揮官として、言えそうで実はなかなか言えない名セリフだ。

　そして、ラニエリの「息子たち」も、エースが出場停止中の翌節にスウォンジーを見事に大破(4-0)して優勝に王手をかけた。

　今季のプレミアで人々を魅了した、レスターによる「シンデレラ物語」と「シンデレラのパパ」の二本立て大ヒット作。いよいよ、感動のフィナーレがやって来る。