マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
東大・宮台康平は本当に一流なのか。
“勉強と両立させた野球”の副作用も。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/04/27 10:30
昨年は連敗を史上ワーストの94まで伸ばしてしまった東大野球部。好投を続ける宮台も、今季は実は白星はまだない。
東大野球部にどうしても不足するのは「体力」。
人がうらやむほどの素質を持っている。おそらく、人知れず自らお手本とすべき対象を観察し、分析し、何度もなぞって身につけた技術も人並み以上。向き合う相手の技量をかぎとる嗅覚も人一倍。
しかし、アスリートが最も時間とエネルギーを費やして体を鍛えるべき十代後半の時期が、“勉強と両立させた”野球だったことの未熟さ。
投手としてのすばらしい資質と発展途上の基礎体力が、表裏一体になっている。それが、東京大の快腕・宮台康平の“ほんとのところ”なのではないか。
「頼もしい後輩が出てきた……そう思って、僕たちはすごく楽しみにしているんだ」
OB・古田氏の言葉にも力がこもる。
「せっかく東大に入ってここまで伸びてきたんだから、彼には勝ちきれるピッチャーになってほしいんだ。そう、1点取れば勝てる。そういうピッチャーだよ。それで、もしもプロで、と思うんなら、プロに行ってチームのために働けるピッチャーになってからだ。まず、体を鍛えること。ほかの“五大学”のピッチャーに負けない体力。そこが、東大生がいちばん遅れをとってるところだからね。
あと1年半あるんだ。しっかり積み重ねてほしい。ぎりぎり、間に合うと思う。自分から練習することだ。言われたことだけやってたんじゃ、絶対に足りない。プロへ進むんだという高い志を掲げて、自分の力量の過不足を分析して、自分でプランを作って、自分に合うように合理的に工夫して……そう、知恵を使ってね。それができるのが東大生なんじゃないか。東大だから弱いんじゃない、東大生にしかできない強くなる方法だってあるんだからね」
“闘える男”が赤門から現れた。
かつて、次のように言って暗く笑った東大の野球部員がいた。
「ボクたち、リーグ戦でいくら負けたって社会に出れば勝利者ですから」
冗談じゃない。同じ学生に向かってむく牙すらなくて、社会の大波、小波を乗り越えていく気概がどこから生まれてくるのか。
おもて面の威勢のよさなんかどこにもないが、あくまでクールにフラットに、しかし正面きって地に足生やして強敵、難敵に向かっていくマウンドの立ち姿。
東京大学投手・宮台康平。
最近の六大学にめっきり少なくなってきた“闘える男”が、赤門から現れた。