熱血指揮官の「湘南、かく戦えり」BACK NUMBER
連敗中だが、あえてメンタルを語る。
湘南・曹監督の日記に見える希望。
text by
曹貴裁Cho Kwi-Jae
photograph byShonan Bellmare
posted2016/04/13 15:00
連敗中でチーム全体が沈みがちだが……曹監督の精神的強さが周りを奮い立たせている。
この状況で、あえてメンタルの話をする意味とは?
●4月8日(金)
6日の大宮戦は、攻撃的なサッカーをすると宣言した我々にとっては苦杯をなめさせられるような試合だったが(0-1で敗戦)、今季初出場を果たした選手もいる中で、課題はありつつも良いゲームができたと思っている。この試合をネガティブに捉える必要は全くないだろう。
次に対戦する甲府さんとは僕が監督になってからほぼ毎年対戦しており、選手も相手の特徴を良くわかっている。だからこの試合に向けては、細かい対策以上にメンタル面が非常に重要な一戦になるという前提で選手ヘアプローチすると決めた。
チームが負けている状況で監督がメンタル面の話をすることは実はすごく危険なことだ。選手自身が「戦えていない」と感じている状況であれば彼らの中に言葉が入っていくが、選手自身が「戦っている」と感じている、そして僕から見てもそういう部分が向上してきているという状況でメンタルの話をすると、「監督はもうメンタルの話しか引き出しがないほど追い込まれているんじゃないか」「精神的な強さ、弱さに問題を転嫁しているんじゃないか」という印象を与えてしまう恐れがあるからだ。
そのリスクを承知で今回話をしたのは、当然ながら僕の中ではプロセスがあるから。今回の試合は、パスを何本つないだか、ペナルティエリアに何回侵入できたかといったことが勝敗を分かつ試合にはならないだろう。これだけ長い間ライバル関係を続けてきたチームに対しては、先手を取るメンタリティがないと確実に相手に流れが行ってしまう。だから最初から相手のゴールに向かっていく気迫や、ミスをしても次に向かう勇気がピッチの中、ベンチの選手みんなに備わっていないと勝点3に近づけない。メンタル面にしかアプローチができないからでなく、メンタル面にアプローチすべき今だからこそ、今回はあえてそういう話をした。
●4月9日(土)
早くも明日に迫った甲府戦。それぞれ短い時間ではあったがオープンプレーでの戦術的な確認、セットプレーでの確認を行い試合に備えた。
練習前のミーティングで、少しサッカーの話とは離れるが、バドミントン代表候補選手の事件に触れた。こういったことが起きてしまうのは同じスポーツ界の仲間としても残念な気持ちでならないが、同じスポーツ界の仲間であるからこそ自分たちから明るい話題を提供していけるようにしなくてはならないと思う。自分たちが持つ力を正しい形で表現していかなければならない。
「表現をする」という意味において、サッカーというものを語る上で、一昔前までは「良いものは持っているが発揮できない」ということが「ポテンシャル」という言葉にすり替えられ、それが評価される一部分になっていた。だが今の時代では、発揮できなければ良いものを持っていないことともはや同義だ。どれだけアウトプットできるかが全て。そういう世界に生きるからこそ負の現象に動じないメンタルの強さ、物事をポジティブに考える力がアスリートにとって必須条件だと思う。メンタルという土台が最終的には結果に結びつく。その点で、先日の大宮戦の失点シーンでのレフェリーの難しい判定然り、チームの勝ちたいという想いが前面に出ている、つまりアウトプットされていれば判定や運というものも自分たちに転がり込んでくるものと思っている。ひとつひとつへのプレーのこだわりを強めていくことで、良い結果に近づいていくはずだ。
明日の甲府戦は、攻守において粘り強く戦う姿勢が必要。そのためのメンタル面の重要性を説き、トレーニングも行った。セットプレー一発で勝負が決まるような展開も予想されるが、全員で充実した気持ちで試合に臨みたい。