濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートのエース、ヒジ打ちに散る……。
宍戸大樹が引退試合で見せた血と覚悟。
posted2016/04/10 10:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Susumu Nagao
シュートボクシングの大ベテラン、宍戸大樹の引退試合は、18年間、82戦におよぶ彼のキャリアで最も激しい打撃戦になった。
現在は3分3ラウンドが多いシュートボクシングだが、この試合は5ラウンド。それもヒジ打ちを認めた“旧ルール”で行なわれた。宍戸がまだエースになる前、ホープと言われていた頃のルールだ。
そこには、最後に体力とテクニックをすべて出し切りたいという思いと同時に、次世代へのメッセージも込められていた。
「UFCはヒジありでやってるし、日本の総合格闘技イベントもヒジありルールが増えてる状況がある。そういう中で、じゃあ“立ち技総合格闘技”を標榜しているシュートボクシングはこれからどうするのか、と。時代の変化に合わせて、ヒジありルールを復活させるのも選択肢の一つじゃないかと思うんですよ」
自分の引退試合を、シュートボクシングという競技の発展につなげようとする。長年エースとして団体を引っ張ってきた宍戸らしい考え方だ。
ムエタイ戦士にヒジ勝負を真っ向から挑む。
対戦相手はムエタイの強豪ジャオウェハー・シーリーラックジム。
宍戸とは昨年9月に対戦して敗れているが、今回はムエタイの真骨頂でもあるヒジ打ちが解禁されたことで、何倍もアグレッシブになっていたように見えた。
お互い序盤からヒジを繰り出す展開だ。ジャオウェハーは圧力をかけながらロープに詰めて振り抜き、宍戸はステップを使って左右に回りながらガードの隙間を突いて縦方向のヒジ。倒すにしても出血させて試合続行不可能に追い込むにしても、ヒジでのフィニッシュしか考えていないような闘いぶりだった。
2ラウンド、先に出血したのはジャオウェハーだった。
ドクターチェック後、続行の判断が下されるとそれまで以上の迫力でパンチとヒジをラッシュ。“日本人にヒジで切られた”ことがムエタイ戦士としての誇りに火をつけたのかもしれない。タイ人の攻撃といえば“狙いすました一撃”というイメージがあるが、この日のジャオウェハーはなりふり構わぬ“乱打”を見せた。