濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートのエース、ヒジ打ちに散る……。
宍戸大樹が引退試合で見せた血と覚悟。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2016/04/10 10:30
後ろ蹴りを炸裂させた宍戸。直後、相手のヒジで切り裂き攻勢をかけたのだが……。
「切られた傷は勲章」と師匠は涙ぐんだ。
シュートボクシングのために無理と無茶を重ねてきた。
それがエースの宿命だった。
しかし最後の最後、引退試合のラスト数分間、彼は自分のためだけに闘えたのではないか。
思う存分打ち合って、悔いなくリングを降りることができた。それが結果として作戦ミスだったとしても、もう“エースとしての責任”を問うものなど誰もいない。これまでの試合で、それはもう充分に果たしてきたのだ。
「ごまかしながら闘っていたら、こういう感動的な試合にはならなかったでしょう。ああいう散り方だったからこそ、お客さんの印象に残る。印象に残る闘いができるというのは素晴らしいことです。切られた傷は勲章ですよ」
宍戸の師匠であるシーザー武志・シュートボクシング協会会長は、そう言って涙ぐんだ。「宍戸大樹という選手がいたことを、記憶にとどめてもらえるような引退試合がしたい」という宍戸の願いは、間違いなく叶えられた。
82戦58勝24敗、シュートボクシングでの試合数は史上最多。
記録にも記憶にも残るシュートボクサー人生だった。