濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートのエース、ヒジ打ちに散る……。
宍戸大樹が引退試合で見せた血と覚悟。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2016/04/10 10:30
後ろ蹴りを炸裂させた宍戸。直後、相手のヒジで切り裂き攻勢をかけたのだが……。
「最後にまた経験値が上がりました」
宍戸は額をカットされ、2度のドクターチェックが入る。
目の上、さらに頭頂部からも出血していた。ヒジで対抗するが、ジャオウェハーの勢いは止まらない。“立ち技総合格闘技”らしくスタンディングでのフロントチョークも見せたが不発。最後は右ヒジをクリーンヒットされて崩れ落ちたところでレフェリーが試合を止めた。
3ラウンド1分14秒、TKO。
それが宍戸の最後の試合結果になった。
引退セレモニーを終えると医務室に直行し、傷の治療をした。3箇所合計で21針縫ったという。切ったことはあっても、切られたのは初めてだった。
「最後にまた経験値が上がりました。いい勉強をさせてもらったと思います」
インビュースペースでそう語った宍戸。敗因は「欲を出してしまったこと」だと分析していた。先に相手を出血させたことで、正面からのヒジ打ち勝負にこだわってしまったのだ。確かに、カット以降は持ち味のステップワーク、バックブローやバックキックがあまり見られなくなっていた。
ただそれでも、宍戸は「思いっきりぶつかっていってやられたので。気持ちとしてはスッキリしてます」と言った。結果は出なかったが、自分が闘いたいように闘ったのは確かだ。
どんな大会、どんな条件でも逃げずに戦ってきた。
シュートボクシングのエースとなって以来、宍戸は常に団体を代表し、負けが許されない立場で闘ってきた。
全盛期、減量せずとも練習だけでリミットを割ってしまう70kgを主戦場にしてきたのも、その階級で世界トーナメント『S-cup』があったからだ。K-1 MAXのブレイクでこの階級にスポットが当たると、休む間もなく(本来は階級が違う)国内外の強豪と対戦。試合を断ったことは一度もなかった。
無尽蔵のスタミナを活かした手数の多さや、ステップワークと回転技を駆使したファイトスタイルは、自分より大きな相手と闘うためのものでもあった。